「何者」(江戸川乱歩)

強盗は「何者」?探偵は「何者」?犯人は「何者」?

「何者」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第7巻」)光文社文庫
(「横溝正史が選ぶ日本の名探偵
  戦前ミステリー篇」)河出文庫

響き渡る拳銃の音。
驚いて駆けつけた人々が
見たものは、足を血だらけにして
倒れていた弘一の姿だった。
窓から侵入した強盗に
撃たれたものらしい。
賊はなぜか金色に光るものばかり
盗んでいった。
回復した弘一は
探偵を始めるが…。

江戸川乱歩の中篇作品「何者」。
その表題どおり、
「何者」?と問いかけたくなるような
謎めいた要素に富んだ作品です。

【明智小五郎事件ファイル08「何者」】
〔主要登場人物〕
「私」(松村)
…本編部分の語り手。友人宅で起きた
 銃撃事件に関わることになる。
※冒頭部分数行の語り手「私」は
 事件記録者。
結城弘一
…「私」の友人。
 「私」を鎌倉の自宅に招く。
 何者かに銃撃され、負傷。
 探偵趣味があり、事件を探偵する。
結城少将
…弘一の父親。陸軍少将。
 ※名前は記されていない。
志摩子
…弘一の従妹にして許嫁。美しい女性。
久松
…志摩子の愛猫。
甲田伸太郎
…「私」の友人。
 「私」とともに結城邸に逗留する。
 銃撃事件の第一発見者。
 志摩子に思いを寄せている。
琴野
…志摩子の友人。
 事件の夜、招かれていた客の一人。
常さん
…結城家下男。
 事件時に不審な行動を取る。
赤井
…結城家に逗留している謎の客。
 探偵趣味がある。
 不思議な行動をする。
波多野警部…警視庁警部。
明智小五郎…私立探偵。

本作品の味わいどころ①
強奪それとも殺人、強盗は「何者」?

なんとも不思議な事件です。
足跡は庭の井戸と事件のあった
書斎の窓との往復のみ。
まるで井戸から現れ、
井戸へと消えたような痕跡です。
作者が乱歩ですから、
「井戸から現れる怪人」を
設定したのかと思ってしまいます。
その犯人は、金目のものを盗まず、
金色のものばかりを
盗み取っているのです。
目的も不明であり、
「狂人」か「愉快犯」のようにも思えます。
さらには、犯行目的が
弘一殺害だった可能性も浮上し、
「怨恨理由の復讐犯」もしくは
「陰湿な殺人鬼」も
考えられるようになるのです。
「怪人」「狂人」「愉快犯」
「復讐犯」「殺人鬼」と、
犯人像がめまぐるしく変遷します。
強盗は「何者」?
そこに頭を悩ませることこそ、
本作品を味わう
第一歩となっているのです。

本作品の味わいどころ②
姿を現さない明智、探偵は「何者」?

本作品は明智小五郎登場作品として
知られている割には、
いつまでたっても
明智は姿を現しません。
地の文や会話部分に
その名前が登場するだけで、
本人はなかなか登場しないのです。

そうこうしているうち、
被害者である結城弘一が
探偵を始めてしまうのです。
病床にありながらの、
まさしくアームチェア探偵
(いや、ベッド探偵か?)。
「私」を使い走りにしながら、
事件における不思議な現象を、
次から次へと解明していきます。
それどころか波多野警部をやり込める
場面まで用意されているのです。
このまま名探偵結城が
事件を解決してしまうのか?
探偵は「何者」?
そんなスリルを体験することこそ、
本作品を味わう二歩目となるのです。

本作品の味わいどころ③
最後に驚愕の真相、犯人は「何者」?

もちろんそれで終わりではありません。
明智が登場し、
真の事件解決を完了させるのです。
まさに大どんでん返し。
小気味よいまでの
真相解明劇となるのです。
この終末こそ、本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
犯人は「何者」?
その驚愕の真相を、
たっぷりと堪能しましょう。

さて、乱歩といえば、
いわゆる「変格探偵小説」の雄として
君臨しています。
ところが本作品に限り、
現れるかと思った「井戸怪人」は現れず、
血の海の中で
屍体が弄ばれるような殺人が
次に起きるかと思えば
事件は単発で終わり、
拉致監禁されて虐められるかと思った
美女・志摩子はまったく被害を受けず、
乱歩らしさである「エログロ」が
全く登場しないのです。
乱歩らしからぬ「本格」探偵小説として
仕上がっているのです。

本当に乱歩が書いたのか?
この時代、
名義の貸し借りが当たり前に横行し、
乱歩名義で発表されたいくつかの作品は
横溝が書いていたことが
判明したりもしています。
もしや、作者は「何者」?
こればかりは乱歩に
間違いないようです。
ぜひご賞味ください。

(2025.2.14)

〔青空文庫〕
「何者」(江戸川乱歩)

〔「江戸川乱歩全集第7巻」〕
何者
黄金仮面
江川蘭子
白髪鬼
 解題/注釈/解説
 私と乱歩 青柳いづみこ

〔関連記事:明智小五郎の事件簿〕

「蜘蛛男」

〔江戸川乱歩全集はいかが〕

〔「横溝正史が選ぶ日本の名探偵戦前」〕
 名探偵今昔 横溝正史
三つの声 岡本綺堂
何者 江戸川乱歩
宙に浮く屍骸 林不忘
点眼器殺人事件 海野十三
南蛮幽霊 佐々木味津三
聖アレキセイ寺院の惨劇 小栗虫太郎
夜の翼 木々高太郎
遠島舟 久生十蘭
風流六歌仙 横溝正史

JoeによるPixabayからの画像

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