「株式仲買店員」(ドイル)

終わってみれば、「赤毛組合」的テイスト

「株式仲買店員」(ドイル/日暮雅通訳)
(「シャーロック・ホームズの回想」)
 光文社文庫

株式仲買人の依頼人は、
奇妙な出来事を
ホームズに相談する。
バーミンガムの会社の
営業支配人として
雇われることになったが、
それを斡旋した男と、
その会社の社長が、変装した
同一人物ではないかという
疑念があるというのだ…。

ドイル
シャーロック・ホームズ・シリーズの
短篇作品第16作目です。
いったい何が起きているのか
わからない。
でも何か怪しいことが起きている。
あの「赤毛組合」のような面白さのある
作品です。

〔主要登場人物〕
シャーロック・ホームズ

…探偵コンサルタント。
「わたし」(ジョン・H・ワトスン)
…語り手。医師(元軍医)。
 彼の仕事に同行する。
ホール・パイクロフト
…依頼人。株式仲買人。
 モーソン商会転職が決まっていたが
 バーミンガムの別の会社の
 営業支配人としての雇用が決まる。
アーサー・ピナー
…パイクロフトを自分の兄の会社に
 推薦した男。
ハリー・ピナー
…アーサーの兄。
 フランコ・ミッドランド金物会社の
 社長。

本作品の味わいどころ①
いったいどこが「事件」なのか

依頼人自体、何が起きていたのか
わかっていないのです。しかし
何かが起きていることは確かです。
なぜなら怪しいことばかりだからです。
何か怪しい会社に
就職してしまったらしい、
仮事務所には看板すらない、
自分以外の社員の姿が見当たらない、
仕事は今のところ名簿整理のみ、
社長は自分と会うときのみ
会社に現れる、
そしてなによりも斡旋人と社長は
兄弟といっているものの
同一人物らしい…。
怪しいことばかりでありながら、
いったいどこが「事件」なのか
まったくわかりません。

実は最後まで「事件らしいもの」は
姿を現さないのです。
読み手は書かれてある状況から
読み取る、いや、
想像を働かせるしかないのです。
いったいどこが「事件」なのか、その謎を
まずはじっくり味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
捜査せずに解決するホームズ

事件らしい事件が起きない以上、
ホームズの動きも限定的です。
得意の推理は
冒頭でのいつものワトスンとの
かけあいがあるだけで、
依頼人の相談についての捜査は
特に行っていないのです。
強いていえば、依頼者とともに
ピナー社長のもとに就職希望者として
面会しに行ったことのみなのです。

もちろんそれもホームズの捜査の一つと
いえなくもないのですが、
そのまま事件は解決を迎えます。
捜査しなくとも事件を解決させる
ホームズの魅力を、
次にしっかり味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
最後に明かされる驚愕の真相

考えてみると、
主要登場人物として挙げた五人のうち、
ホームズとワトスン、
そして依頼者を除けば、
あとはピナー兄弟だけです。
しかもこの二人は
同一人物の可能性が高いのです。
だとすれば犯人
(事件が起きていないので
「悪人」というべきか)はピ
ナーただ一人なのです。
要はこの人物の謎の行動の秘密を
解き明かすだけなのです。
その謎解きは、最後に行われます。

それはそうと、
ホームズの行動とはまったく関係なく、
本事件だけは警察がしっかり
解決していたというものなのです。
それについては
ぜひ読んで確かめてくださいとしか
いいようがありません。
最後に明かされる驚愕の真相こそ、
本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと堪能してください。

というわけで、終わってみれば、
「赤毛組合」的テイストを
味わうことができます。
まだ未読の方、ぜひご賞味ください。

(2025.2.21)

〔「シャーロック・ホームズの回想」〕
名馬シルヴァー・ブレイズ
ボール箱
黄色い顔
グロリア・スコット号
マスグレイヴ家の儀式書
ライゲイトの大地主
背中の曲がった男
入院患者
ギリシャ語通訳
海軍条約文書
最後の事件
注釈/解説
エッセイ「私のホームズ」旭堂南湖

〔関連記事:ホームズ・シリーズ〕

「まだらの紐」
「ウィステリア荘」
「バスカヴィル家の犬」

〔光文社文庫:ホームズ・シリーズ〕
「緋色の研究」
「四つの署名」
「シャーロック・ホームズの冒険」
「シャーロック・ホームズの回想」
「バスカヴィル家の犬」
「シャーロック・ホームズの生還」
「恐怖の谷」
「シャーロック・ホームズ最後の挨拶」
「シャーロック・ホームズの事件簿」
ホームズ・シリーズは
いろいろな出版社から
新訳が登場しています。
私はこの光文社文庫版が一番好きです。

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「三人の死体」
「手掛かりは銀の匙」
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