
日本で生きる私たちの問題として
「アマゾンで地球環境を考える」
(西沢利栄)岩波ジュニア新書
いま経済を優先する波が、
熱帯雨林を伐採し、
消滅と破壊の危機に
追い込んでいます。
アマゾンの熱帯雨林も
同じ状況にあり、
深刻な問題になっています。
熱帯雨林が
失われるということは、
それにともなって
生物多様性が喪失して…。
今冬も、
何度も強力な寒波が襲ってきたり、
これまで雪の降らない地域に
大雪が降ったり、
異常気象が顕在化しています。
その異常気象は地球の環境破壊、
特に熱帯林の消失が
原因の一つであることが
指摘されてはいるものの、
身近な問題として
とらえにくいところがありました。
そこで読書です。
本から情報を吸収して、この問題を
自分事としてとらえていきましょう。
味わいどころは懇切丁寧な「解説」です。
〔本書の構成〕
はじめに
1 河口の都市ベレンで
熱帯雨林を知ろう
2 アマゾンをさかのぼり
大河の役割を考えよう
3 マナウスで森林消失と再生を学ぼう
4 セルトンで砂漠化と
それを防ぐ農業を見よう
5 アマゾンと地球の未来を考えよう
あとがき
本書の味わいどころ①
現地での研究や活動をもとにした解説
地球規模での環境問題を論じた場合、
科学的理論が先行しすぎ、
個別の地域の個別の問題が
見えにくくなることがあります。
本書はアマゾンの地で実際に
熱帯林の研究やその保全に関する活動に
携わった著者が、
その経験をもとに解説してあるため、
遠く離れたアマゾンの地で、
何が起きているのか明確に
理解できるしくみになっています。
しかも「アマゾン」という
大きな括りにせず、
「ベレン」「マナウス」「セルトン」と、
地域を限定し、
そこで自らが行った研究や活動で
見えてきた現状や問題を
かみ砕いて述べているのです。
さらに、
現地の人々のようすや交流しての印象、
貴校や宿泊に関する思い出、
さらには現地の料理の味わいなども
交えてあるため、
親しみやすい内容となっているのです。
この、
現地での研究や活動をもとにした解説が
本書の第一の味わいどころとなります。
しっかり味わいましょう。
本書の味わいどころ②
日本で生きる私たちの問題として解説
アマゾンは日本人にとって、
目が向かないところであると感じます。
「地球の裏側」であり
距離が離れているだけでなく、
興味・関心の対象に
なりにくいところです。
ともすれば「他所の問題」として
終わりがちなのですが、
本書はけっしてそうなってはいません。
アマゾンの熱帯林が
失われることによって、
日本人の生活がどのように
悪影響を受けるのか、
丁寧に説明がなされています。
それによって、アマゾンの環境問題を、
私たち自身の問題として
受け止めることができるように
なっているのです。
この、日本で生きる
私たちの問題としての解説こそ、
本書の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくり味わいましょう。
本書の味わいどころ③
人類の未来に向けた処方箋として解説
もちろん問題提起で終わっていません。
地球規模での環境問題に、
特効薬はありません。
しかし、各国が手を携えて
取り組まなければならないこと、
そして私たち一人一人が
今すぐできること、
それらを区別して
適切な提言がなされています。
それはまさに人類の未来に向けた
処方箋として機能するはずです。
この点こそが、本書の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。
環境問題を論じた書物は、
危機的状況ばかりを
ことさら感情的に叫びあげるものが
目立つのですが、
本書は科学的知見に基づき、
冷静に事実を解説しています。
謙虚で誠実な語り口であることも
好感が持てます。
2005年刊行であり、
鮮度がやや落ちてきてはいるのですが、
その味わいと価値は
いささかも減じていません。
今回十数年ぶりに再読し、
そう実感しました。
岩波ジュニア新書の素敵な一冊です。
ぜひご賞味ください。
(2025.2.24)
〔関連記事:岩波ジュニア新書自然科学〕


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