
表題どおりの全篇「からくり仕掛け」
「乱れからくり」(泡坂妻夫)
幻影城ノベルス
目の前で起きた隕石の衝突に、
宇内と勝は呆然とする。
巻き込まれて死亡した馬割朋浩は
調査の依頼人だった。
その馬割家では、長男・透一の
薬物誤飲事故を皮切りに、
親族が次々と謎の死を遂げる。
馬割の家
「ねじ屋敷」の秘密とは…。
もはや古典的名作となってしまった
泡坂妻夫の長編小説「乱れからくり」。
どんな小説かと思って読み進めると、
いきなり隕石落下。
これはSFか、それともジョーク、
もしや何かのパロディ?
ところがその後は、
謎の連続殺人事件が発生し、
本格的探偵小説の色合いが
濃くなっていくのです。
〔主要登場人物〕
勝敏夫
…宇内経済研究会社員。実直な青年。
先走る性格。
宇内舞子
…宇内経済研究会社長。元警察官。
男性的な口調で気性の荒い女性。
行動は冷静。旧姓油川。
※馬割家の人々
馬割作蔵
…玩具商「鶴寿堂」創始者。幕末の人物。
馬割蓬堂
…作蔵の子。
「鶴寿堂」を「ひまわり工芸」として
発展させる。「ねじ屋敷」建設。
作蔵の存在を隠そうとした形跡あり。
馬割鉄馬
…蓬堂の子。ひまわり工芸現社長。
馬割龍吉
…鉄馬の弟。故人。
鉄馬とは仲が悪かった
馬割朋浩
…龍吉の子。ひまわり工芸製作部長。
海外出張へ出掛ける途中、
隕石落下事故に巻き込まれ死亡。
馬割真棹
…朋浩の妻。
馬割透一
…朋浩と真棹の子。
睡眠薬を大量誤飲し、死亡。
馬割宗児
…鉄馬の子。ひまわり工芸業部長。
朋浩とは従兄弟どうし。
からくり人形に仕掛けられた
毒針にて殺害される。
馬割香尾里
…宗児の妹。画家志望。
拳銃のようなもので殺害される。
石巻順吉
…香尾里の婚約者。
※捜査関係者
京堂刑事…榎町署交通課刑事。
奈良木警部…西原署捜査主任。
狐沢刑事…大縄署刑事。
本作品の味わいどころ①
表題どおりの全篇「からくり仕掛け」
それにしても驚かされるのは、
表題どおりの全篇「からくり仕掛け」。
殺人事件は人間業とは思われず、
何らかのトリックが
仕掛けられているのは想像できますが、
読み終えると、
すべての殺人に「からくり」が
仕掛けられているのですから驚きです。
そもそも被害者一家は
幕末から続く玩具メーカー。
それも古来のからくりを応用させた
玩具を製作しているのですから
当然です。
しかも被害者宅は「かぎ屋敷」と呼ばれる
異様な構造を持つ邸宅。
怪しい匂いがプンプンします。
そしてその庭園には五角形の立体迷路
(なんとそこにもからくりが!)。
これでもかというくらいの
「からくり仕掛け」なのです。
それだけではなく、
随所に「からくり」の蘊蓄が
嫌というほど盛り込まれています。
これ一冊熟読すると、
和洋のからくりの歴史が
展望できるというくらいの代物です。
しかも全部で18ある章立ては
すべてからくり名(一部玩具名)で
統一されているという念の入れよう。
まさに「乱れからくり」なのです。
〔本作品の構成(章立て)〕
1 かたかた鳥
2 スペイスレース
3 はずみ車
4 ドーナッツ時計
5 八幡起上り
6 ビスクドール
7 熊んべ
8 万華鏡
9 逆立人形
10 米喰い鼠
11 斬れずの馬
12 からくり迷路
13 ねじ屋敷
14 眠り人形
15 ずんぶりこ
16 魔童女
17 からくり身上
18 笑い布袋
この、すべてにちりばめられた
「からくり」こそ、本作品の第一の
味わいどころとなっているのです。
じっくり味わいましょう。
本作品の味わいどころ②
連続殺人!そして誰もいなくなった
冒頭の隕石落下はともかく、
それ以降は謎の連続殺人事件、
馬割一族が次々に謎の死を遂げるという
横溝正史ばりの展開が続くのです。
〔本作品の事件の概要〕
※朋浩:隕石落下による事故死
①透一:睡眠薬の大量誤飲による死亡
②香尾里:何者かに銃で狙撃され死亡
③宗児:からくり人形に仕掛けられた
毒針で刺され死亡
④鉄馬:服用薬を毒物とすり替えられ
中毒死
①はともかく、②③④は、
警察が「ねじ屋敷」で捜査活動中に起きた
殺人なのです。
警察の目をかいくぐって引き起こされる
殺人事件。
これほどミステリアスな事件は、
ジュヴナイル以外では
記憶にありません。
馬割家のほぼすべてが殺害され
「誰もいなくなる」という
大胆な筋書きこそ、本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
しっかり味わいましょう。
本作品の味わいどころ③
最後に驚愕の真犯人判明、それは…
したがって最後に残るのが
真棹夫人ただ一人。
美貌の若未亡人が犯人だったなんて…、
と思わせておいて最後に驚くべき
「からくり」が仕掛けられています。
これだけは
ぜひ読んで確かめてくださいとしか
言いようがありません。
息もつかせぬ展開の先に用意された
驚愕の真犯人、
驚愕の殺人トリック、
驚愕の殺害動機、
ねじ屋敷の迷路に秘められた
驚愕の秘密、
それらの「からくり」の数々を、
最後までたっぷりと味わいましょう。
それにしても探偵役の
宇内と勝のコンビも魅力的です。
シリーズ化されることなく、
本作品だけの登場となってしまったのが
惜しまれます。
泡坂妻夫。また魅力溢れる探偵作家と
出会うことができました。
私が購入したのは
花輪和一の挿絵が妖しげな
昭和五十年代に刊行された
単行本(古書)です。
文庫本も昨年2024年に
新装版が登場しました。
そちらの方でぜひご賞味ください。
〔本作品のラジオドラマについて〕
たしか本作品が刊行された当時
(1979年頃)、
NHKでラジオドラマ化されていて、
それを聞いた記憶があります。
たしか赤川二郎の「幽霊列車」や
江戸川乱歩の「黄金仮面」が
放送されていた時間帯であり、
ワクワクしながら
その時間を待ちました。
不思議なことに筋書きは
まったく記憶に残っていません。
その後、
映画化やTV化もされていますが、
筋書きは改変され、そちらは残念ながら
本作品の魅力がそがれているようです。
(2025.2.28)
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