「光触媒が未来をつくる」(藤嶋昭)

科学が切り拓く明るい未来の姿

「光触媒が未来をつくる」(藤嶋昭)
 岩波ジュニア新書

本書では、光触媒のしくみや、
その技術を応用した
実際の製品開発を
成功させるまでのストーリーを
できるだけ分かりやすく
紹介していきたいと思いますが、
それと併せて、
研究や開発の現場にある感動と、
ときに失敗や挫折、そして…。

「触媒」とは、化学反応を
促進させるような物質のことであり、
「光触媒」とは、光を照射することにより
触媒作用を示す物質のことです。
近年、教科書にも
コラム的に取り上げられるのですが、
詳しくは説明されていません。
その「光触媒」は、実は日本の科学者が
切り拓いたものなのです。
本書はその発見から
製品開発の実際までが
わかりやすく説明されています。

〔本書の構成〕
第1章 感動の瞬間
第2章 触媒と光触媒
第3章 まず環境問題への応用から
第4章 酸化チタンのはたらき⑴
第5章 酸化チタンのはたらき⑵
第6章 汚れない家
第7章 空気がきれいになる
第8章 光触媒の広がり
第9章 部屋の中で使いたい
第10章 医療にも使えそう
第11章 エネルギー問題へのチャレンジ
第12章 ほんものの光触媒へ
おわりに

本書の味わいどころ①
科学技術発見の面白さ

第1章第2章では、
この光触媒の原理の発見にまつわる
エピソードが語られます。
発見そのものよりも、
その「発見」を認めてもらうまでの
大変さが綴られています。
特に光触媒の場合、
国内の学会ではまったく相手にされず、
イギリスの総合学術専門誌
「ネイチャー」に
すんなり掲載されたことによって
状況が一変したとのことでした。
素人目には、発見さえすれば
世間が勝手に認めてくれるような
気がしていたのですが、
けっしてそうではないのです。
「発見」も苦労が大きいのでしょうが、
「認められること」は
それ以上に大変なのかもしれません。
そんな研究の裏側を垣間見ることこそ、
本書の第一の味わいどころなのです。
しっかり味わいましょう。

本書の味わいどころ②
生活に役立つ科学技術

とかく科学は難しい。
一般的にはそう思われています。
光触媒の原理も当然難しいのですが、
本書はそこにはあまり踏み込まず、
簡単に済ませています。
その分、光触媒が私たちの生活に
どのような形で役立つのか、
それが第3章以降で述べられます。

光触媒の反応として、
酸化チタン電極に
光が当たることによって
水の分解が起きることが
第1章において説明されていましたが、
だからといって
水素をエネルギーとして活用するほど
多くの量を生産できるわけでは
なさそうです。
光触媒の持つ「酸化分解力」と、
続いて発見された「超親水性」によって、
汚れを自動的に分解し、きれいにする
「セルフクリーニング効果」を生かす
観点で実用化を促進していることが
述べられています。
高速道路のトンネル内の照明用ガラス、
高層ビルの窓ガラス、
建造物の外壁、
空気清浄機や冷蔵庫の殺菌や脱臭、
曇らない鏡、
病院とくに手術室の殺菌等々、
私たちの生活に、
実はしっかりと入り込んでいたことに
気づかされます。
生活に役立つ科学技術を知る、
それこそが本書の
第二の味わいどころとなるのです。
じっくり味わいましょう。

本書の味わいどころ③
未来をつくる科学技術

何よりも光触媒という科学技術が、
これからもいろいろな分野で
応用とその利用が広がり、
私たちの生活の質が
向上してくることの大切さが、
本書のいたるところで
述べられているのです。
ともすれば「科学」は「自然」と
対極にあるものとしてとらえられ、
ネガティブな見方をされることが
多いのですが、けっして
そうではないと確信させられます。

さらに、
科学者や文化人の言葉を引用し、
科学とそれがつくる未来の大切さを
説いています。
「大切なことは、
何も疑問を持たない状況に
陥らないことです」という
アインシュタインの言葉、
「ピラミッドは
頂上から造られはしない」という
ロマン・ロランの言葉が、
それぞれ印象的です。
この、若い読み手に向けて発信された、
科学が切り拓く明るい未来の姿こそ、
本書の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

中学生高校生に
お薦めしたい一冊ですが、
大人のあなたが読んでも
十分に心の栄養となる良書です。
ぜひご賞味ください。

(2025.3.10)

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