
ものづくりの楽しさ、そして奥深さを教えてくれる
「ものづくりに生きる」(小関智弘)
岩波ジュニア新書
たくさんの職人たちが、
ニンベンをつけて仕事をするのを
見てきた。
鋳物を吹く仕事をする人たちも、
木型を作る人たちも、
瓦職人やゆかたを染める職人も、
それぞれの仕事のなかで
ニンベンをつける
工夫をしているのを
見てきた。…。
旋盤工として働くかたわら、
フィクション、
ノンフィクションの作家として
執筆活動を続けてきた著者の、
岩波ジュニア新書からの一冊です。
これまで取り上げてきた
「仕事が人をつくる」(岩波新書)、
「道具にヒミツあり」(岩波ジュニア新書)
同様、
いろいろな分野の職人に光を当て、
その仕事ぶりとともに、その職人の
生き方について紹介しています。
〔本書の構成〕
1 機械にニンベンをつけるとは、
2 手で人生を拓く
3 まぼろしの指
4 工場の仕事は味気ない?
5 夫婦工場・夫婦鍛冶
6 技術の伝達者たち
7 プロセスが大事
8 仕事と遊びの境界
9 教科書のない仕事
10 わたしの転機
11 いま町工場は
あとがき
本書の味わいどころ①
ものづくりの奥深さを味わう
ものづくりこそ日本という国を
支えてきた産業だと思うのですが、
いつの頃からか
「3K」(きつい・汚い・危険)などといわれ、
若い人から敬遠されるように
なってしまいました。
しかし、本書で紹介されている
ものづくりの職人たちは、
みな生き生きと仕事をしています。
一万分の一ミリの正確さに挑戦する
マスター原器製作者、
他社の真似のできない
リフレクタ用金型をつくり上げる職人、
設計図のない状態から
つくり上げなければならない
木型職人など、
人のできないような仕事を
やり遂げることに
生きがいを感じている職人たちが
多数登場するのです。
そこにはきつい・汚い・危険なことも
あると同時に、
やりがいや達成感、充足感、
自己有用感がしっかりと感じられる
職業であることが伝わってきます。
本書はものづくりの楽しさ、
そして奥深さを教えてくれるのです。
それこそが本書の
第一の味わいどころなのです。
本書の味わいどころ②
人が生きることの意味を問う
そして本書のいたるところに、
著者・小関智弘氏の
人生観が記されています。
自身の仕事を振り返り、
仕事に対する人間の感じ方について、
「つまらない仕事というものはない。
仕事をつまらなくする人間が
いるだけである」。
技術を他者に伝えようとする職人と
隠そうとする職人の、
それぞれの姿勢を比較し、
「道具を隠したり、
技を出し惜しみしたりするような
職人は、時代と共に
発達する技術にとり残される。
そんな男の
道具箱につまっているのは、
ガラクタだけだった」。
さらに「職人」の定義について、
「職人とは、ものを作る手立てを考え、
道具を工夫する人のことである。
それをしないで、
与えられた道具を使って、
教えられた通りの方法で
ものを作る人は、
単なる労働者にすぎない」。
働くことだけでなく、
生き方の指針となり得るような見解が
いくつも記されているのです。
本書は、読むものに対して
人が生きることの意味を
鋭く問いかけてくるのです。
それこそが本書の
第二の味わいどころとなるのです。
本書の味わいどころ③
まちづくりの可能性を考える
「ビルの屋上から設計図を
紙飛行機にして飛ばせば、
三日後には製品になって
もどってくる」といわれた、
東京大田区の町工場街。
本書の多くはそこに取材した成果です。
職人を通して町工場、そして
町工場街が語られているのですが、
それこそがこれからの
日本の産業の在り方を
示しているように思えます。
大工場を誘致して雇用を確保するなどの
従来の方法では、地方の人口流出は
止まることはないでしょう。
小さくても高い技術力で
世界と競争できる工場、
働く人間の技能を伸ばして
職人を育てる工場、
他の業種・他の地域に
提案や発信のできる工場、
そうした工場を集積させた地域だけが
これからの時代、
生き残れるのではないかと思うのです。
本書は、
人口減少を迎えている地方における、
新たなまちづくりの可能性を
示唆しているのです。
それこそが本書の第三の
味わいどころとなっているのです。
岩波ジュニア新書の一冊ですが、
その内容は子どもたちだけでなく、
私たち大人にも十分に
読み応えのあるものとなっています。
書店に溢れている
安っぽい自己啓発本よりも
よほど役に立つはずです。
ぜひご賞味ください。
(2025.3.24)
〔小関智弘の本について〕
1999年の本書のあとを受けて、
2007年に同じ岩波ジュニア新書から
「道具にヒミツあり」が出版されました。
こちらもお薦めです。
そして岩波新書「仕事が人をつくる」は、
大人の視点でより深く
ものづくりの職人の世界を
ルポルタージュしています。
そのほかに
このような本が出版されています。
〔関連記事:生き方を考える新書〕



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