「ビブリア古書堂の事件手帳Ⅳ」(三上延)

つながる「鎌倉文庫」「篠川母子」「シリーズ全篇」

「ビブリア古書堂の事件手帳Ⅳ」
(三上延)メディアワークス文庫

資産家のガーデン・パーティを
訪れた篠川大輔・栞子夫妻。
しかしその娘・扉子、
そして栞子の母・智恵子も
同時に招かれていた。
主宰者の兼井花子と
ビブリア古書堂の親子三代は
それぞれ、「鎌倉文庫」と呼ばれる
古書でつながっていた…。

ビブリア古書堂の事件手帳、
第二シリーズの第4作です。
第3作ですでに高校生となった扉子。
今回も高校2年生としての活躍ですが、
それだけではありません。
全体は三部構成であり、
それぞれが扉子・栞子・智恵子の
高校生時代を描いたものなのです。
三部がつながるとき、
篠川母子三代の物語も
その姿を見せ始めるのです。

〔主要登場人物〕
篠川栞子

…ビブリア古書堂店主。
 古書に関してずば抜けた知識を持つ。
篠川大輔
…プロローグ・エピローグ:語り手「俺」。
 栞子の夫。旧姓五浦。
 ビブリア古書堂店員。
篠川扉子
…栞子・大輔の娘。稲村高校2年生。
 本だけが友達。
篠川智恵子
…栞子の母。旧姓三浦。栞子・大輔に
 古書売買の知識を指導する。
 かつて夫と子どもを残して失踪した。
篠川登
…第二話第三話語り手「俺」。
 智恵子の夫。ビブリア古書堂店主。
 若い頃、学生の智恵子とともに
 「鎌倉文庫」に関わる。
篠原文香…栞子の妹。
滝野リュウ…栞子の幼なじみ。
樋口恭一郎
…稲村高校1年生。先輩・扉子の影響で
 本に興味を持ち始める。
 古書店虚貝堂の孫。
樋口佳穂
…恭一郎の母。
戸山圭
…扉子の親友。古書店もぐら堂の娘。
 稲村高校2年生・図書委員。
 扉子と関係が悪化していた。
戸山利平
…圭の大伯父。幻の「鎌倉文庫」を
 所有していると周囲に話す。
戸山清和…もぐら堂初代店主。
戸山吉信…清和の息子。
兼井健蔵
…不動産会社経営者。
 「鎌倉文庫」蒐集を目指す。
兼井花子
…健蔵の妻。
 篠川親子三代をパーティに招く。
兼井仁美…健蔵・花子の娘。
兼井弘志…仁美の夫。
兼井益世…弘志・仁美の娘。
吉原…阿漕な古書店主・久我山の部下。

〔本書の構成〕
プロローグ 語り手:篠川大輔
第一話 令和編 「鶉籠」 三人称
第二話 昭和編 「道草」
 語り手:篠川登
第三話 平成編 「吾輩ハ猫デアル」
 語り手:篠川登
エピローグ 語り手:篠川大輔

本作品の味わいどころ①
つながる幻の鎌倉文庫

戦争により
出版事情も極度に悪化した1945年。
生活難に陥った文学者と荒廃した人心、
それぞれの救済のため、
鎌倉市在住の文学者たちが
自らの蔵書数千冊を集めて開いたという
貸本屋「鎌倉文庫」。
そこにはに久米正雄、川端康成、
里見弴、中山義秀といった
多くの作家たちから集まった
初版本・稀覯本が揃っていたといいます。
ところが戦後、
出版事業にも乗り出したものの倒産、
その所蔵本の多くが
行方不明となっているのです。
その伝説的な事実を素材に、
作者・三上延は
素敵な仕掛けをつくり上げています。

はたして「鎌倉文庫」千冊は
まだ存在しているのか?
存在しているとすれば
所有しているのは誰か?
昭和の時代に関わった智恵子は、
どこまでその真相を知っているのか?
深まるばかりの謎は、
時間を超えてつながり、
見事に解き明かされるのです。
昭和・平成・令和の三つの時代を経て
つながる幻の鎌倉文庫、
それこそが本作品の
第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
つながる篠川母子三代

令和の時代に扉子が足を踏み入れた
「鎌倉文庫」の謎。
それは昭和の時代に
智恵子が深く関わり、
さらに平成の時代に
栞子が解き明かしていたことが
明かされます。
しかも描かれているのは
それぞれ三人の女子高生時代。
母子三代が高校生の多感な時期に、
この「鎌倉文庫」に関わっていたという
素敵な設定が
本作品の魅力を高めているのです。
幻の「鎌倉文庫」を巡って、
時代を超えてつながる篠川母子三代、
それこそが本作品の第二の
味わいどころとなっているのです。
じっくりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
つながるシリーズ全篇

シリーズ第一作では、
智恵子と栞子の確執と和解が
描かれていましたが、
依然、篠川智恵子の人物像は
謎に満ちていました。
今回は、栞子・扉子と対比する形で
高校生時代の智恵子が描かれ、
母子三人のキャラクターが
より鮮明化されるとともに、
智恵子の「謎」が
より一層深まっています。

そしてシリーズ冒頭で
すでに故人となっていた父・登が、
第二話・第三話の語り手となり、
その温かい人柄が
筋書きに潤いを与えています。
そして登目線で語られる
高校生の智恵子と栞子の姿は、
両者を対比させ、
栞子が何を母から受け継ぎ、
何を父から受け継いだのかを
明らかにしています。

さらに第三話終末では、
これまで登場機会の少なくなっていた、
栞子の妹・文香にも
スポットが当てられています。
栞子のような本に対する能力を
持たないため、
これまで影が薄くなりがちでしたが、
その世話好きな性格と
彼女の抱えた孤独感が
さりげなく描かれ、
篠川家にとって重要な位置づけが
与えられていたことを
再認識させられます。

嬉しいことに、
高校受験前の大輔もチラリと登場、
篠川家との運命的なつながりを
予感させます。

こうして次々に広がりをみせながら、
シリーズ全篇がつながっていく
巧妙な設定と筋書きこそ、
本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

で、結局、智恵子の行動の「謎」は
解明されるどころか深まるばかりです。
解決編はまだまだ先であり、その分、
続編が期待されるのが嬉しい限りです。

2011年からスタートした
「ビブリア古書堂の事件手帳」。
すでに14年が経過しています。
第二シリーズに入ってからは
二年に一度のペースで新作が刊行、
おそらく来年2026年は
「ビブリア古書堂の事件手帳Ⅴ」が
刊行されるとともに
「ビブリア古書堂」15周年記念の
イベントがあるのではと
密かに期待しています。
それはともかく、
シリーズ第十一作の本書を、
ぜひご賞味ください。

(2025.3.31)

〔ビブリア古書堂の事件手帳〕

「ビブリア古書堂の事件手帳」
「ビブリア古書堂の事件手帳Ⅱ」
「ビブリア古書堂の事件手帳Ⅲ」

〔ビブリア古書堂:文庫本〕

NoName_13によるPixabayからの画像

【今日のさらにお薦め3作品】

「動物学科空手道部1年高田トモ!」
「あの夏を泳ぐ 天国の本屋」
「ミカ!」

【こんな本はいかがですか】

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA