「江戸川乱歩全集第10巻 大暗室」(江戸川乱歩)

ジュヴナイルとエログロの二作品、でもテイストは…

「江戸川乱歩全集第10巻 大暗室」
(江戸川乱歩)光文社文庫

怪人対名探偵というパターンは、
これまで何度も
試みてきた設定である。
明智小五郎は
すでに有名になっていたし、
小林という助手まで
活躍しているのだ。
二十面相にはルパンという
お手本があった。
名探偵との知恵と知恵の
対決に…。
(「解説 山前譲」より)

「江戸川乱歩全集第10巻」を
再読しました。
この巻は二作品だけしか
収録されていないのですが、
これがまた傑作大作の二作品です。
一方は子ども向けの
ジュヴナイル作品のシリーズ第一作、
もう一方は乱歩らしい
エログロ色満載の大人向け大長編。
まったく性格の異なる
二作品なのですが、
いくつかの共通点もあり、
それが本書の
味わいどころとなっているのです。

〔「江戸川乱歩全集第10巻」〕
怪人二十面相
大暗室
 解題/注釈/解説
 私と乱歩 瀬名秀明

「怪人二十面相」
家出していた長男が
十数年ぶりに帰国した
実業家・羽柴氏のもとに、
ロマノフ王家に伝わる
宝石を奪うという
怪人二十面相からの予告状が届く。
厳重な警戒態勢にもかかわらず
宝石は奪われてしまい、
さらに次男の壮二が誘拐される…。

「怪人二十面相」

〔「怪人二十面相」味わいどころ〕
①圧倒的な存在感!怪人二十面相
②少年の心を鷲づかみ!小林少年
③昭和の少年の憧れ!明智小五郎

「大暗室」
有明男爵の遺児・有村清と、
男爵を殺害した悪人大曾根五郎の
息子・大野木隆一とは、
異父兄弟であった。
有村は正義の騎士として、
大野木は悪魔の申し子として、
それぞれ成長する。二人は
それが運命であるかのように
対決していく…。

「大暗室」

〔「大暗室」味わいどころ〕
①最悪最強の悪の化身、大曾根龍次
②豪華絢爛&エログロ満載、大暗室
③読み手の感覚を麻痺させる乱歩節

本書の味わいどころ①
圧倒的な存在感を発揮する「悪」

作品「怪人二十面相」は、
言わずと知れた少年探偵団シリーズ
第一作ですが、この二十面相、
圧倒的存在感を放っています。
あたかもすでに
有名となっているかのような
描かれ方であり、
冒頭から読み手を
ぐいぐいと引きつけます。
一方、「大暗室」もまた
「大曾根龍次の悪の物語」としか
いいようのないほど、
悪党の存在感が強烈です。
だまし取った遺産を資金とし、
犯罪組織と地下迷宮を造り上げ、
ただ「悪」をなすため
悪事をはたらき続けるのです。
両者ともこの、
圧倒的な存在感を発揮する「悪」こそが
第一の味わいどころとなるのです。
じっくり味わいましょう。

本書の味わいどころ②
個ではなくチームで対抗の「善」

その「悪」に対抗するべき「善」ですが、
「悪」に比べると、力が今ひとつ
不足しているといわざるを得ません。
したがって個で戦うわけには
いかなくなるのです。
「怪人二十面相」では、
名探偵・明智小五郎が
二十面相に拮抗しうる存在感を
放ってはいるのですが、
戦闘はチームで行っています。
助手の小林少年、そして少年探偵団、
さらに中村警部と
警視庁捜査一課の警察官集団。
一方、「大暗室」は
「善」の旗手・有明友之助は
いかんせん存在感が薄く、
参謀役の久留須左門老人が
万全のサポートの上、
警視庁のこちらも中村警部が
支えているのです。
両者ともこの、個ではなく
チーム一丸となって「悪」と対峙する
「善」の姿勢こそが第二の
味わいどころとなっているのです。
しっかりと味わいましょう。

本書の味わいどころ③
知恵対知恵、最後は「勧善懲悪」

そうなると当然クライマックスは、
「善」と「悪」の対決となります。
決着は一度でつきません。
「悪」にしてやられる場面あり、
「善」の勝利かと思えば
詰めの甘さから取り逃がす失態あり、
なかなか「善」の勝利は訪れないのです。
じりじりした思いを味わいながら
読み進めた先にこそ、
「善」の完全勝利が待っているのです。
「勧善懲悪」。
古今東西に共通するこの価値観こそ、
両者のテーマであり、
さらには両者の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

ジュヴナイルとエログロ作品の
両者なのですが、
このように本質的なテイストは
似かよっているのです。
しかも「大暗室」は、のちに
氷川瓏なる作家によってリライトされ、
明智小五郎と怪人二十面相の対決に
置き換えられたという、
やはり因縁浅からぬ
二作品といえるのです。
「怪人二十面相」、「大暗室」、
そしてさらには「大暗室(少年探偵版)」
これら三作品をぜひご賞味ください。

(2025.4.4)

〔関連記事:「大暗室(少年探偵版)」〕

「大暗室(少年探偵版)」

〔関連記事:江戸川乱歩全集〕

「第5巻 押し絵と旅する男」
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