
成長した二人に出会える物語
「ミカ×ミカ!」(伊藤たかみ)文春文庫
最近、ミカのようすがおかしい。
そう感じていたユウスケは、
ヒロキから
「ミカが畑山に告白してふられた」
ことを聞く。
複雑な感情を抱く
ユウスケだったが、
同じクラスのちづるが
自分に関心を持っていると
知らされ、なお混乱する…。
以前取り上げた「ミカ!」の続編です。
特別な事件は起きないものの、
人物の描き方が前作同様、
主人公の年齢までしっかりと
降り立った目線のものとなっています。
「ああ、中学2年生あたりからすれば
確かにこんな感じだろう」と
思われる部分が多々あり、
和やかな気持ちにさせられるのです。
伊藤たかみの素敵な一篇です。

〔主要登場人物〕
「ぼく」(ユウスケ)
…語り手。中学校2年生。
気持ちの優しい男の子。
苗字は「葉山」。
ミカ(ミカコ)
…「ぼく」の双子の妹。喧嘩っ早い。
女の子であることに
違和感を感じながらも
女の子であることを意識し始める。
ヒロキ
…「ぼく」の友だち。苗字は清水。
ミカが好きだが告白できない。
ちづる
…「ぼく」に好意を持っている女の子。
畑山
…ミカが告白した相手。
「父さん」
…「ぼく」の父親。会社員。
香坂
…「父さん」の新しい恋人。
同じ会社の部下。
シアワセ
…ミカが飼っているインコ。
なぜか「ぼく」とだけ会話ができる。
本作品の味わいどころ①
ユウスケとミカ、それぞれの成長
前作では、主に家族の問題が
取り上げられていました。
別居する家族の中での、
揺れ動く小学生の双子の兄妹の姿が
新鮮でした。
続編である本作品は、
中学生になったユウスケとミカ、
それぞれの成長のようすが
生き生きと描かれています。
前作同様、
語り手であるユウスケの視点であり、
家族から友だちへと、
成長とともに視線が移っているのが
微笑ましい限りです。
離ればなれになった母や姉の話題が、
全編を通して登場しないことが
効果を上げています。
前作の家族の離散から一歩踏み出し、
二人がその状況をしっかり受け止めて、
前向きに生活できているという
ことなのでしょう。
ミカは相変わらずの
「オトコオンナ」ぶりを発揮しつつ、
自分が女であることを意識し始める。
ユウスケ自身も
ミカの恋愛の行方を見つめながらも、
自分の恋心としっかり向き合う。
それぞれの素直な成長に
心を癒やされる思いがします。
この、ユウスケとミカ、
それぞれの成長が
中学生目線で描かれていることこそが、
本作品の第一の味わいどころなのです。
じっくり味わいましょう。
本作品の味わいどころ②
描かれるそれぞれの初々しい恋愛
それぞれの成長の大きな部分は
「恋愛」でしょう。
したがってユウスケとミカ、
それぞれの初々しい恋愛が
ユウスケ目線で描かれていて、
それが本作品の大きな魅力です。
自分よりも男勝りである妹を、
それでも兄として温かく、
そして優しく見守っているようすは
ほのぼのとします。
けっして余計なことを言わず、
かといって黙っているわけでもない、
熱くも冷たくもない、
この「適温」の加減が
ユウスケらしいところなのでしょう。
そして自身の恋愛についても
誠実に向き合っています。
相手に気遣いながらも、自らの思いを
しっかりと大切にしている。
それもまた
ユウスケらしいところなのです。
ミカと畑山、ユウスケとちづる、
それだけでなく
ヒロキのミカに対する想いも
丹念に描かれています。
さらには「父さん」と香坂さんの恋まで
付け加えられています。
年齢的にはけっして
初々しくなどないはずですが、
ユウスケ目線を通して描かれると、
こちらもそれなりに
「初々しく」感じられてしまうから
不思議です。
この、描かれていくそれぞれの
初々しい恋愛の姿こそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
しっかりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ③
不思議なインコ「シアワセ」の活躍
前作では「オトトイ」なる
不思議な生物が登場しました。
ミカの涙を吸収して大きくなるという
「あり得ない」「謎の」生き物でした。
本作品にも不思議生物が登場しますが、
本作品の「シアワセ」は、
ユウスケとだけ
言葉を交わすことができる青いインコ、
何となくあり得そうです。
「不思議度」が下がり、
現実に一歩近づいてきた
(それでもありえないのですが)のも
続編ならではです。
「オトトイ」は筋書きに
一切絡まないという
「良さ」を発揮したのですが、
こちらの「シアワセ」は積極的に活動し、
筋書きに織り込まれています。
さて、「シアワセ」は
どのように活躍するのか?
この、不思議インコ
「シアワセ」の活躍こそ、
本作品の第三の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。
子育ても終わり、
初めてわかったことがあります。
子どもは小学生、中学生、高校生、
それぞれの時間で
全然違うということです。
考えてみれば(みなくても)
当たり前です、成長するのですから。
そして、その成長していく姿を
見られることが、
親として最も嬉しいことです。
小説の世界でも同様です。
特に続編等で、主人公の成長した姿に
出会えたときは格別です。
この作品には、まさにそのような
「成長を見る嬉しさ」が
あふれているのです。
前作「ミカ!」を読んだ中学生が、
そのあとに本作を読むと
どんな感想を持つのだろう。
想像するととてもワクワクしてきます。
二人が高校生となった
「ミカ×ミカ×ミカ!」は
おそらく登場しないのでしょうが、
読み手の心の中に
しっかりと展開していきそうです。
(2025.4.7)
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