
すっきりしたリライト、その「減量」が効果を発揮
「魔術師(少年探偵版)」(江戸川乱歩)
ポプラ社
実業家の福田のもとに届く
連続数字は殺人予告か!?
厳重な警戒の網をかいくぐって
凶行は行われた。
警備の巡査とともに
甥の二郎が寝室をのぞき込むと、
そこには首を切断された
無惨な死体があった。
頼みの明智は行方不明となり…。
先日取り上げた江戸川乱歩「魔術師」の
ジュヴナイル版です。
原作にも明智小五郎が登場するため、
登場人物や筋書きは
おおむね原作そのままです。
登場人物については波越警部が
中村警部に変更になっていますが、
どちらも警視庁所属であり、
まったく違和感はありません。
また、玉村家の三人兄弟が
一郎・二郎・妙子であったのが、
一郎・妙子・二郎の年齢順に
変更された程度です。
リライトは「大暗室」と同じく
氷川瓏ですが、かなりすっきりした
リライトとなっています。
文章量はおそらく
半分以下になっているはずです。
その「減量」が効果を発揮しています。
〔主要登場人物〕
玉村善太郎
…宝石商。
謎の怪人・魔術師に命を狙われる。
玉村一郎
…善太郎の長男。
玉村二郎
…善太郎の次男。
玉村妙子
…善太郎の長女。一郎の妹、二郎の姉。
花園洋子
…二郎の恋人。少女歌手。
誘拐され、殺害される。
進一
…両親と死に別れた十歳の男の子。
妙子が育てている。
福田得二郎
…事業家。玉村の弟。
音吉
…玉村家の庭掃除の爺や。
不審な動きを見せる。
玉村幸右衛門
…善太郎の父親。故人。
牛原耕造
…玉村氏一家を晩餐に招待する。
魔術師
…正体不明の怪人。
奥村源造
…魔術師の正体。
奥村源次郎
…源造の父親。
文代
…魔術師の娘。心の清い娘であり、
明智に手助けする。
三次
…魔術師の手下の一人。
中村警部
…警視庁警部。事件の捜査にあたる。
明智小五郎
…私立探偵。静養先で妙子と知り合う。
〔事件の概要〕
①明智、誘拐・拉致監禁される。
②福田得二郎、殺害される。
③福田得二郎の首、発見される。
④明智、敵アジトを脱出。
⑤明智の死亡記事を新聞が掲載。
⑥妙子、襲撃される。
一命を取り留める。
⑦一郎、罠にかかり絶体絶命、
救出され、無事。
⑧花園洋子、誘拐、殺害。
⑨妙子、入院先から行方不明。
⑩明智、魔術師を追いつめるが、
捕縛失敗。
⑪玉村一家、魔術師に拉致監禁される。
⑫玉村一家、救出される。
⑬魔術師、自死。一味、全員捕縛。
⑭玉村家で殺人事件発生。
⑮明智、事件解決。
本作品の味わいどころ①
スピード感溢れる冒険活劇
「減量」したために、
全体的に余分な脂肪が取れスリム化し、
スピード感溢れる展開となっています。
次から次へとめまぐるしく展開し、
息もつかせぬ
冒険活劇となっているのです。
原作冒頭にあった明智の静養の説明や、
理屈の多い謎解きが
ばっさりカットされたのは
低年齢の読者に対する配慮でしょう。
冷静に考えると、魔術師の謎の多くは
解けていないのですが、
原作でもかなり不自然な理由付けや
説明不足な点が散見されているので、
気にしなければいいだけの話です。
むしろこの展開の速さが、
子どもたちにとっての
爽快感につながるものと考えます。
このスピード感溢れる冒険活劇こそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ②
下げた目線で恐怖感アップ
原作でも、玉村兄弟の中で
一番活躍が目立っていたのは二郎です
(一郎はなぜか途中参戦、
後付け感が拭えない)。
その二郎の年齢を、原作の大学生から
十五歳程度まで一気に下げています。
そのため二郎目線で
描かれている部分では、
より一層恐怖感が増しているのです。
小林少年を登場させるには、筋書きを
大きく改編する必要があるため、
登場人物の誰かを少年に
設定するしかなかったのでしょう。
また、原作のグロテスクな部分を
緩和したために薄れた恐怖感を、
二郎の目線を下げることによって
解消しようとしたのかもしれません。
いずれにしても、
この下げた目線によってアップした
恐怖感こそ、本作品の
第二の味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ③
きわ立つ明智の存在と活躍
そして明智の存在感も増しています。
明智がくどくどと説明する部分が
割愛され、明智の登場シーンは
ほぼすべて冒険と活躍の場面に
絞られているのです。
少年探偵団シリーズ特有の
「明智vs二十面相」と同じ、
「明智vs魔術師」の構図が
より鮮明となっているのです。
こうした勧善懲悪のパターンが
しっかりと完成していることこそが
ジュヴナイルの醍醐味なのです。
この、きわ立つ明智の存在と活躍こそ、
本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。
以前にも書きましたが、
少年探偵団シリーズの
新装版や文庫化の際、
第27巻以降は黙殺されたままです。
表現がマイルドになったとはいえ、
猟奇的殺人を描いた筋書きは、
現代では完全にアウトです。
そうした内容を考えると、
今後復刊することは絶望的でしょう。
このハードカバー版は
そうした意味で貴重です
(amazonで2025年3月現在、
古書価格が6000円以上)。
ぜひ安値の古書を探して
ご賞味ください。
(2025.4.13)
〔関連記事:少年探偵団シリーズ〕



〔少年探偵シリーズ・リライト版〕
Amazonで探すことは可能です。
「27 黄金仮面」
「28 呪いの指紋」
「29 魔術師」
「30 大暗室」
「31 赤い妖虫」
「32 地獄の仮面」
「33 黒い魔女」
「34 緑衣の鬼」
「35 地獄の道化師」
「36 影男」
「37 暗黒星」
「38 白い羽根の謎」
「39 死の十字路」
「40 恐怖の魔人王」
「41 一寸法師」
「42 蜘蛛男」
「43 幽鬼の塔」
「44 人間豹」
「45 時計塔の秘密」
「46 三角館の恐怖」
〔関連記事:乱歩作品〕





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