
彼らは教室二〇五号でいったい何を見つけるのか?
「教室二〇五号」(大石真)実業之日本社
友だちと諍いを起こし、
授業をサボった六年生の友一は、
物置小屋の中に
不思議な地下室を見つける。
恐る恐るのぞいてみると、
中には二年生の明がいた。
そこは明と洋太の秘密の
隠れ家となっていたのだった。
健治を加えた四人は…。
学校の先生も生徒も誰も知らない
秘密の地下室「教室二〇五号」。
そこで仲間となった
友一・洋太・健治・明の四人。
優等生の友一、
元優等生・現ひねくれ者の洋太、
運動が得意・勉強が苦手の健治、
そして年下の明。
周囲からは「なぜあの四人が?」と
思われるくらいのタイプの違う
メンバーたちなのです。
さてこの四人、
どんな変化と成長を見せるのか?
〔主要登場人物〕
高山友一
…六年生。優等生。難関私立中学を
受験しようとしている。跛行。
物置小屋で地下室を発見する。
滝洋太
…六年生。以前は優等生だった。
再婚した父親に納得せず、
両親に反発している。
田口健治
…六年生。運動が得意。跳び箱を
跳べるように友一に指導する。
吉川明
…二年生。地下室で友一と出会う。
家庭内で孤独を感じている。
藤村英美子
…友一の同級生。
滝俊一
…洋太の父親。妻が病死して以降、
洋太と二人で生活していたが再婚。
滝以知子…洋太の新しい母。
福田先生…体育の先生。
野村先生…友一たちの担任の先生。
本作品の味わいどころ①
今と変わらぬ子どもを取り巻く問題
健治以外の三人は、すべて問題、
もしくは悩みを抱えています。
友一は難関私立中高一貫校K学院に
合格するよう母親から洗脳されている。
そのため自分の成績を第一に考える
「点取り屋」となり
周囲の信頼を失っている。
洋太は父の再婚にともない、
家庭内で疎外感を感じている。
洋太自身は気持ちが荒んでいく。
担任の先生はその事情を
わかろうとせずに叱るばかり。
明の両親はお金を稼ぐことに
夢中になるあまり、
子どもである明への関心が薄い。
そうした子どもを取り巻く問題が、
実に丁寧に描かれています。
そしてそれらは、本作品の舞台である
1960年代だけでなく、現代にも
通じるものとなっているのです。
この、今と変わらない、
子どもを取り巻く諸問題を
考えることこそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ②
描かれる子どもの気持ちの揺れ動き
小学校六年生と二年生。
子どもであり、まだまだ自分の感情を
コントロールできない年齢です。
その様子が実によく記されています。
作品冒頭の、友一と健治の諍いの場面。
お互いに相手の弱点を
ストレートに突いてしまう
無邪気な残酷さ、そして
「びっこ」とからかわれたことに対する
友一の悔しさ、
そうした子どもならではの感情を、
実に見事に描出しています。
中盤以降に描かれる洋太の家の事情。
自分と父親の間を
義母に割り込まれたような感情、
そこからくる変にねじ曲がって
素直になれない気持ち、
それを両親に責任転嫁してしまう
やるせない思い、
そうした洋太の鬱屈した心情が
丁寧に綴られているのです。
この、子どもらしい気持ちや
感情の揺れ動きこそ、本作品の
第二の味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ③
「次の居場所」としての教室二〇五号
地下室そのものは居心地の良い空間と
いうわけではありません。
想像するに、真っ暗でじめじめした
洞穴に過ぎないのです。
電気はなく、あかりは蠟燭の灯です。
なぜそこに四人は集まったのか?
「秘密の隠れ家」という魅力も
子どもたちにとってはあるでしょう。
しかしそれ以上に、
「次の居場所」としての要素が
大きいはずです。
友一も洋太も、家庭が決して
心が安まるべき場所ではなく、
学校でも両者はクラスの中で
やや孤立傾向です。
友一は塾という
三つめの居場所があるのですが、
そこには競争だけがあるのです。
子どもは(大人ももちろん)
居場所を必要とします。
この教室二〇五号は、
家庭と学校以外の、
「次の居場所」なのです。
彼らは教室二〇五号で
いったい何を見つけるのか?
それこそが本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

実は、私は大石真のこの本を
小学校の図書館で読みふけり、
夢中になっていました。
この本のことはおろか、
この本に夢中になったことすら忘れ、
四十年以上が経過しました。
一昨年東京出張の際に足を延ばした
上野の国際子ども図書館で
本書を見つけ、思い出した次第です。
うまく古書を見つけ、
読むことができました。
実に四十数年ぶりの再会です。
図書館で見つけるのも困難、
古書を探すしかない本を
お薦めするのは気が引けるのですが、
味わい深い児童文学の傑作です、
ぜひご賞味ください。
(2025.4.21)


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