
日本を代表する文学として認知された「少年探偵団」
「怪人二十面相・青銅の魔人」
(江戸川乱歩)岩波文庫
「怪人二十面相」「青銅の魔人」
それぞれポプラ社の単行本で読み、
光文社の江戸川乱歩全集でも読み、
しかも現在はいろいろな出版社から
発売されているのですから、
珍しくも何ともない作品ではあります。
しかし、岩波文庫からの登場なのです。
2017年に刊行されたときには
目を疑ってしまいました。
〔「怪人二十面相・青銅の魔人」岩波文庫〕
怪人二十面相
青銅の魔人
解説 佐野史郎
解題 吉田司雄
「怪人二十面相」
家出していた長男が
十数年ぶりに帰国した
実業家・羽柴氏のもとに、
ロマノフ王家に伝わる
宝石を奪うという
怪人二十面相からの予告状が届く。
厳重な警戒態勢にもかかわらず
宝石は奪われてしまい、
さらに次男の壮二が誘拐される…。

〔本作品の味わいどころ〕
①圧倒的な存在感!怪人二十面相
②少年の心を鷲づかみ!小林少年
③昭和の少年の憧れ!明智小五郎
〔事件の概要〕
⑴羽柴邸事件
⑵日下部邸事件
⑶帝国博物館事件
怪人二十面相、シリーズ第一作から
圧倒的存在感を放っています。
あたかもすでに
有名となっているかのような
描かれ方であり、冒頭から読み手を
ぐいぐいと引きつけます。
ジュヴナイルということを
十分意識したのでしょう、
二十面相のキャラクターとして
設定された、
人殺しをしない、
金儲けに走らない、
美術品に絞って狙う、
誰にでも変装できる、
これらは少年作品の「怪盗」の
スタンダードとなりました。
この、圧倒的な存在感を放つ、
怪人二十面相というキャラクターこそ、
本作品の、そして
本シリーズの、最大の
味わいどころとなっているのです。
「青銅の魔人」
突如として東京に現れた
「青銅の魔人」。
ギリギリという歯車の音を
鳴らしながら
真夜中の時計店を襲う魔人は、
ついには秘宝
「皇帝の夜光の時計」を狙う。
犯行予告を受けた
時計の所有者・手塚は、
事件の捜査を
明智小五郎に依頼するが…。

〔本作品の味わいどころ〕
①見事な造形の敵キャラ青銅の魔人
②少年探偵団のチンピラ別働隊登場
③地下に広がる二十面相の「アジト」
〔事件の概要〕
⑴「皇帝の夜光の時計」強奪事件
⑵小林少年誘拐・拉致・監禁事件
⑶手塚龍之助誘拐事件
もちろん
青銅の魔人=怪人二十面相です。
第二作「少年探偵団」では「黒い魔物」、
そして第三作「妖怪博士」では
「妖怪博士」のほかに
「妖婆」「お化蝙蝠」と、
化け物キャラを進化させてきた
二十面相ですが、いよいよ
化け物の完成度がアップしてきました。
全身が金属で覆われた
ロボット型の化け物です。
身体から歯車の音がするだけでなく、
落下した際は内部が歯車だらけだった
ことが明らかになるなど、
イメージしただけでワクワクします。
乱歩は本作品以後、
「透明怪人」「電人M」「宇宙怪人」
「夜光人間」など、次々に
奇怪なキャラクターを登場させます。
実はそれらの味わいどころについても、
本作の②を
「明智・小林・少年探偵団vs二十面相の
対決」と読み替えれば、すべてに
当てはまってしまうものなのです。
つまり、この「青銅の魔人」こそ、
戦後の少年探偵団シリーズの
スタンダード・モデルなのです。
それにしても、岩波文庫は原則として
古典を中心とした展開であり、
存命作家でまだ評価が定まっていない
現代作品は収録されないことで
有名です。
乱歩作品などかつて短篇集が
編まれていましたが、
よもや少年探偵団シリーズが
収録されるとは
思ってもみませんでした。
乱歩、そして少年探偵団が
日本を代表する文学として
認知されたということでしょう。
嬉しい限りです。
みなさん、ぜひご賞味ください。
(2025.5.2)
〔青空文庫〕
「怪人二十面相」(江戸川乱歩)
「青銅の魔人」(江戸川乱歩)
〔岩波文庫:江戸川乱歩作品〕
〔関連記事:少年探偵団シリーズ〕





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