「ことばの道草」(岩波書店辞典編集部編)

やはり言葉は面白い。いや、日本語が面白い。

「ことばの道草」(岩波書店辞典編集部編)
 岩波新書

語源をたずねると、
「ことば」が身近になる。
語義の変化を知ると、
「ことば」の豊かさを実感する。
これは、
「広辞苑」改訂に携わるなかで、
日々感じてきたことです。
わたしたちは、この思いを
読者と共有したいと思い、
先人たちの…。

岩波新書に挟まれている「栞」には、
ことばの語源や用例が
さりげなく記されています。
岩波新書を読み、
しおりに目をやるたびに、
自分の言葉が
少しだけ豊かになったような
気がしていました。
本書「ことばの道草」は、
それらを一冊にまとめたものであり、
これなら言葉の世界がさらに
大きく広がるはずです。
そして、本書を読むことにより、
言葉を知る喜びを
感じることができるはずです。

〔本書の構成〕
はじめに
Ⅰ もとをただせば漢籍・仏典
Ⅱ 植物と動物の名前
Ⅲ 生活の感覚 時代の雰囲気
Ⅳ 江戸の遊びの風景
Ⅴ カタカナ語往来
Ⅵ 新語登場

本書の味わいどころ①
言葉を新しく知る喜び

まず何よりも今まで知らなかった言葉、
意味のよく分からなかった言葉、
わからないままに無視してきた言葉を、
正しく知る喜びを
感じることができます。
「顰みに倣う」「赤縄」「鶏鳴狗盗」
「鰥寡孤独」などは、
文学作品のどこかに
登場していたかもしれないのですが、
おそらくはスルーしていた
可能性があります。
意味のわからない語があっても、
前後のつながりがわかれば
問題ないため、
気にしないことが多いのです。
こうして言葉を新しく知ることにより、
文学作品の一文一文を
より深く味わうことができるはずです。
この、言葉を新しく知る喜びこそ、
本書の第一の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本書の味わいどころ②
言葉の成り立ちを知る喜び

そして、その言葉が
どのようにして生まれたのか。
それを正しく知る喜びを
感じることができます。
背中を掻くための「孫の手」。
おじいちゃんが小さな孫から
背中を掻いてもらう情景が
目に浮かんでしまうのですが、
「孫」が単なる当て字だったとは!
「本来は「麻姑」という
 中国伝説の仙女の名。
 爪は長く、鳥の爪に似ており、
 掻いてもらうと愉快この上ない」

なるほど!
おおまかで無計画な金銭処理を意味する
「丼勘定」。
「なぜ丼?」と思っていましたが、
その丼は、飯を盛る器ではなく、
職人などが身につける
腹掛けの前かくし!
今で言えば、
じゃらじゃらと小銭を入れていた
ポケットに手を突っ込み、
それを無造作に取り出してレジで
支払うようなイメージなのでしょう。
納得。
この、普段何気なく使っている言葉の
成り立ちを知る喜びこそ、
本書の第二の
味わいどころとなるのです。
しっかりと味わいましょう。

本書の味わいどころ③
言葉の意味の変遷を知る喜び

さらに、言葉の意味が
どのように移り変わったのかを
知る喜びを感じることができます。
曲の出だしの部分を意味する「さわり」。
実はこれは誤用であり、
正しくは「曲中でもっとも聞かせ所と
されている部分」、
つまり「さび」とほぼ同一だったとは!
ゆったり、のんびりといった
イメージのある「おっとり刀」。
実はまったく逆の意味で、
「刀を腰に差す暇もなく、
手に取ったまま」、
かなり急いでいる様子を
表していたのです。
意見が多すぎて収拾がつかない状態の
「喧喧諤諤」。
これは権勢を恐れずに正論を述べる
「侃侃諤諤」と
大勢がやかましく騒ぎ立てる
「喧喧囂囂」の二つの語の混交
(やはり誤用)だった!
誤用が広く蔓延し、やがて市民権を得て
「言葉」として定着していく。
そうした言葉の変遷を知る喜びこそ、
本書の第三の
味わいどころといえるのです。
たっぷりと味わいましょう。

やはり言葉は面白い。
いや、日本語が面白いのです。
普段何気なく使っている
日本語の言葉一つ一つですが、
こんなにも奥が深く、
こんなにも興味深い歴史を秘め、
こんなにも面白い成り立ちを
もっていたことに、
あらためて気づかされます。
本書「ことばの道草」を、
味わい尽くしましょう。

※本書は1999年刊行。
 四半世紀が過ぎていますが、
 鮮度は落ちていません。
 ぜひご賞味ください。

(2025.5.5)

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