「国境なき医師団が行く」(久留宮隆)

人としての生き方を考えさせてくれる一冊

「国境なき医師団が行く」(久留宮隆)
 岩波ジュニア新書

ようやく私は、
「国境なき医師団」としての
ミッションに
派遣されることになった。
派遣先はリベリア共和国。
アフリカ西海岸に位置する
この国は、
医療体制にいたっては
崩壊状態で、
総合病院などはなく、
医療施設は明らかに不足…。

「国境なき医師団」。
1971年にフランスの医師と
ジャーナリストのグループによって
作られた非政府組織であり、
世界最大の国際的緊急医療団体です。
国際援助分野における功績によって、
1999年にノーベル平和賞を
受賞しています。
名前だけは私も知っていましたが、
そのミッションは驚くほどに
過酷なものとなっています。
「国境なき医師団参加レポート」とも
いえる本書は、
その実態を伝えるとともに、
人としての生き方を考えさせてくれる
一冊となっています。

〔本書の構成〕
プロローグ
1章 ミッションはじまる
2章 痛い経験
3章 スタッフの面々
4章 リベリアの生活
5章 体調を崩す
6章 忘れられない患者
エピローグ

本書の味わいどころ①
理想の生き方を求めることの大切さ

著者・久留宮隆氏は、
「国境なき医師団」参加を決めた段階で
すでに、医師として20年の
キャリアを積み上げていました。
それを捨て、
大幅な収入減になることを覚悟の上、
あえて困難な道を選んだのです。
その根底には
「患者と一対一で向き合う、
 最初から最後まで自分で診る、
 そういう医者を目指した」
という
確固たる理想の生き方が
あったからに違いありません。
本書は理想の生き方を求めることの
大切さを教えてくれます。
それこそが本書の
第一の味わいどころなのです。
じっくりと味わいましょう。

本書の味わいどころ②
他者と相互に理解することの大切さ

「国境なき医師団」のミッションは、
一人で遂行できることではありません。
本書には、外科医である著者の周囲に、
麻酔医をはじめとする複数のスタッフが
「外科医療チーム」を組んで
奮闘している様子が描かれています。
もちろんそのメンバーは、
国籍や話す言葉も違えば、
文化や考え方、それまでのキャリアも
異なる人間たちなのです。
意思疎通が十分にできなければ
チームは機能しないのです。
悪戦苦闘しながらも、そうした
自分とは異なる他のスタッフを理解し、
かつ自らの考えを
適切に伝えようとしている著者の姿は、
社会で生きる私たちすべてが
参考にすべきものだと感じます。
本書は他者と相互に理解することの
大切さを教えてくれるのです。
それこそが本書の第二の
味わいどころといえるのです。
しっかりと味わいましょう。

本書の味わいどころ③
世界の現状を直視することの大切さ

「国境なき医師団」の派遣される
国や地域は、当然、紛争や貧困など
何らかの問題を抱えています。
著者が最初のミッションとして
派遣されたリベリア共和国も
そうした国の一つです。
紛争続きで
平和な日常が脅かされている、
男尊女卑の傾向が強いために
女性、特に少女が
性的な詐取に遭い続けている、
貧困のために医療機関を
すぐには利用できない等々、
世界にはまだまだこのような国があり、
そこに手を差し伸べなければ
ならないことに気づかせてくれます。
本書は世界の現状を直視することの
大切さを教えてくれるのです。
これこそが本書の第三の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

本書の中でも語られているのですが、
こうした現状に対して日本社会
(私自身も含めてなのですが)の対応の
冷淡さはいかがなものかと
思ってしまいます。
海外支援(金銭的な支援以上に
人的支援)の重要性を
もっと考えていくべきなのでしょう。
十数年ぶりに再読し、
改めて考えさせられました。
岩波ジュニア新書からの一冊ですが、
大人が読んでも
十分に読み応えがあります。
ぜひご賞味ください。

(2025.5.12)

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