
基準は「考える」、いや「面白さ」かも!?
「「考える人」は本を読む」
(河野通和)角川新書
心を動かされた本の話を
いろいろ集めたつもりです。
読書案内ふうの体裁ですが、
系統だったものではありません。
整理されすぎた
ガイドブックではなく、
どのようにでも読める
雑記帳のほうが、読む人に
考えてもらえる面白さが…。
「考える人」は本を読む。
何とも固そうな表題です。
読書をしないと頭が悪くなるぞ、と
子どもを脅す大人の台詞のような、
押しつけがましささえ感じます。
読んでみるとまったく違いました。
かなりソフトな内容と文章であり、
読んで楽しい本なのです。
〔本書の構成〕
Ⅰ 読書を考える
Ⅱ 言葉を考える
Ⅲ 仕事を考える
Ⅳ 家族を考える
Ⅴ 社会を考える
Ⅵ 生と死を考える
あとがき
本書の味わいどころ①
基準は「考える」、いや「面白さ」かも!?
表題は「「考える人」は本を読む」とあり、
表紙カバーの裏側の折り返しには、
「「考える」をテーマに
25冊を厳選」とあります。
どうやら「考える」内容の本を
セレクトしたのだろうと思って
読み進めましたが、
本文はそうしたことを
前面に押し出してはいません。
おそらくは著者・河野通和氏が
「面白い!」と思った本の、
「面白い!」と感じた部分を、
そのままに紹介したような内容です。
ある意味当然です。
良書に「考えない」本など
存在しないでしょう。
本好きな人が良い本と認める本、
そして本好きな人が
他の人に勧めたくなる本は、
例外なく「考える」べき切り口を
豊富にもつ本なのです。
その中で「面白い!」と思えるものこそが
「最上の本」なのでしょう。
この、「面白さ」基準のセレクトこそ、
本書の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。
本書の味わいどころ②
セレクト本著者との距離が売りもの!?
本書の特徴は、
著者・河野氏と
そのセレクト本それぞれの著者との
距離が近いことです。
いくつかの本は、
著者とのエピソードが
愉しげに語られているのです。
読めばまるで本の楽屋裏を
のぞいた気分に浸れるのです。
こうした読書案内は
なかなかありません。
なんでも著者は本書執筆時、
雑誌「考える人」の編集長をつとめ、
さらにかつては「中央公論」「婦人公論」の
編集長を歴任するなど、
出版に深く関わってきたと
いうのですから、当然です。
この、セレクト本の著者との接近戦で
書き表した案内文こそ、本書の
第二の味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。
本書の味わいどころ③
有名ではない本、でも読みたくなる!?
取り上げられている本は、
ノンフィクション主体であり、
有名文学作品は皆無です。
例外は山際淳司の
「スローカーブを、もう一球」と、
山川方夫の
「展望台のある島」でしょうか。
それ以外、決して有名ではないのです。
それなのに、紹介文を読むと
無性にその本を読みたくなるのです
(プロのライターですから
当然といえば当然なのですが)。
もともと本書は、
週刊で書籍紹介を主として配信された
メールマガジンを編集したものです。
そのメルマガは、
週刊とは思えない分量と内容の濃さで、
1万8000人を超えるファンに
愛読されていたというのですから
うなずけます。
この、
知られざる「面白本」を見つけ出し、
勇猛果敢に売り込むその手腕こそ、
本書の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。
世の中には面白本が
まだまだたくさんある、という事実を、
思い知らせてくれる一冊です。
本書を読んでしまえば、
紹介されている本を次から次へと
読みたくなってしまいます、いや、
その前に買いたくなってしまうのです。
お金と時間が
いくらあっても足りません。
本好きなあなたに、強くお薦めします。
(2025.5.19)
〔本書で取り上げられている本〕
「それでも、読書をやめない理由」
デヴィッド・L・ユーリン
「〆切本」
「「本屋」は死なない」石橋毅史
「ボン書店の幻
―モダニズム出版社の光と影」内堀弘
「わが盲想」モハメド・オマル・アブディン
「僕らの仕事は応援団。
―心をゆさぶられた8つの物語」
我武者羅應援團
「スローカーブを、もう一球」山際淳司
「展望台のある島」山川方夫
「思い出し半笑い」吉田直哉
「姉・米原万里―思い出は食欲と共に」
井上ユリ
「夜中の電話―父・井上ひさし最後の言」
井上麻矢
「作家が死ぬと時代が変わる」粕谷一希
「小倉昌男 祈りと経営
―ヤマト「宅急便の父」が
闘っていたもの」森健
「秋山祐徳太子の母」秋山祐徳太子
「願わくは、鳩のごとくに」杉田成道
「「私」を受け容れて生きる
―父と母の娘」末盛千枝子
「広告は、社会を揺さぶった
―ボーヴォワールの娘たち」脇田直枝
「大東京 ぐるぐる自転車」伊藤礼
「ゴミが降る島」曽根英二
「ジーノの家」内田洋子
「さもなくば喪服を」
D・ラピエール&L・コリンズ
「へろへろ―雑誌「ヨレヨレ」と
宅老所よりあい」の人々」鹿子裕文
「モリー先生との火曜日」
ミッチ・アルボム
「ただマイヨ・ジョーヌのためでなく」
ランス・アームストロング
「つながりあういのち」千石正一
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