
教育の向かうべき方向について学ぶ
「障害児教育を考える」(茂木俊彦)
岩波新書
今日、特別支援教育への
教師や関係者の関心の向け方は、
障害が相対的に軽い
障害児の教育に
やや傾斜しているように
思われる。
重度・重症の子どもとその教育が、
視野の周辺部分に
追いやられている。
すべての子どもを大切にして…。
私は今年で特別支援学級の担任として
三年目となります。
これまでの二年間の担任業務体験の中で
「ノウハウ」という面では
それなりに吸収できたと思うのですが、
その基本となる考え方については
手探りの状態でした。
そこで本棚の奥にあった
本書を引っ張り出し、
再読した次第です。
特別支援教育に関わっていなかった
十五年前の初読とは異なり、
多くの学びや気づきがありました。
〔本書の構成〕
序章 変わってきた障害者の見方
第一章 障害による活動の制限
第二章 障害児とどう向き合うか
第三章 学習権・発達権と特別支援教育
第四章 学習と発達の保障をめざして
終章 障害者の自立を励ます社会へ
あとがき
本書の味わいどころ①
「障害」に対する考え方について学ぶ
筆者はまず、「障害」の概念について、
丁寧に説明しています。
基本的には、
通常の人間の営む生活における活動が
制限される状態ということなのですが、
筆者はそれを障害の種類や程度によって
どのように異なるのか、
具体的に例を挙げて解説しています。
そしてそれらの「活動制限」は、
適切な支援さえあれば、
かなりの程度が改善されることを
指摘しているのです。
私たちは、
多種多様な「障害」の実態を理解し、
それに即した支援を
社会全体で行われるよう意識していく
必要があるということでしょう。
この、「障害」に対する考え方について
学ぶことこそ、
本書の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。
本書の味わいどころ②
「特別支援教育」の矛盾について学ぶ
二〇〇七年わが国は、
「特別教育」から
「特別支援教育」へと移行しました。
学校現場にいても、
その実態がよく理解できず、
「特別支援学級の子どもたちを
「特別視」しないことが
大切なのだろう」という雰囲気が
何となく広まっただけでした
(もちろんそれも
大切なことなのですが)。
著者はその移行に絡む
行政の思惑について述べるとともに、
そこに潜む危険性について
鋭く指摘しています。
当時、文科省は、
「特殊学級」から「特別支援教室」に
切り替えることによって
「学級数」を削減、それにともない
各学校に配置する教員数を削減、
それによって人件費削減を図るという、
とんでもない画策を図っていたことが
明かされています。
その後、関係団体の反発で無事
「特別支援学級」へと軟着陸しました。
それによって
いくつかのメリットも生じたのですが、
まだまだそこには矛盾点が
数多く放置されたままであることが、
本書第三章から読み取れます。
この、「特別支援教育」への移行による
メリットと、
いまだに解決されない矛盾点について
考えを深めることこそ、本書の
第二の味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。
本書の味わいどころ③
教育の向かうべき方向について学ぶ
第四章では、
いくつかの実践例をもとに、
これからの「特別支援教育」の在り方が
語られます。
しかしそれは「障害児」だけではなく、
すべての子どもたちに必要な
「学びの在り方」であることが
わかります。
「障害の有無にかかわりなく、
すべての子どもたちが
互いの立場を尊重し、
互いの違いを受け入れて、
支え合い、励まし合って
生きる力の基礎を固める教育を
創ること」こそが大切であるという
筆者の考えは
大きな説得力を持っています。
この、日本の教育の向かうべき
方向について考えることこそ、
本書の第三の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。
突き詰めて考えていくと、
「大人数を一つの教室に押し込み
一斉授業を行っている現状」が、
異様なものに思えてしまいます。
きわめて合理的である一方で、
斬り捨てたものもまた大きいことに
気づかされます。
「特別支援教育」とは、そうした
「切り捨てられたもの」を
一つ一つ取り上げ、
子どもたちに受け渡す
作業のような気がしてきました。
学校関係者だけではなく、
教育とは関わりのない、
一般の方にこそお薦めしたい一冊です。
ぜひご賞味ください。
〔本書を読んで感じたことですが…〕
さて、本書を離れて一言、
私は五十代後半になり、
特別支援学級の担任を任され、
新しい気づきがたくさんありました。
主任業務から外されての
特別支援学級担任でしたが、
私自身はやりがいを感じています。
しかしながら特別支援教育は、
学校現場ではまだまだ
「教育活動の中心から外れた」ような
存在でしかありません。
特別支援学級担任の中には、
「窓際に追いやられた」という
感覚を持っている教員も多々います。
特別支援教育を、
教科指導と同列の位置まで
押し上げるとともに、
若い段階から特別支援学級を経験できる
システムづくりこそ、
現代の学校教育において
必要なものだと感じています。
(2025.5.26)
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