
南極大陸は過酷、いや結構楽しそう
「クマムシ調査隊、南極を行く!」
(鈴木忠)岩波ジュニア新書
小さな動物で、
体長は一ミリにも満たない。
顕微鏡のレンズをのぞくと、
四対八本の脚で
ノコノコと歩く姿に、
思わず「カワイイ…」と
つぶやくことになる。
そんなクマムシを研究している
私が、どうして
南極へ行くことになったのか…。
「クマムシ」。
「プロローグ」にあるように、
どこにでも生息している、
顕微鏡でなければ見えない生物。
そして「南極」。
簡単には行くことのできない、
極寒の巨大大陸。
まったく結びつかないような
二つのものが、一つになっている。
それだけでもワクワクします。
さて、南極でどんな冒険があるのか?
〔本書の構成〕
プロローグ
おもな登場生物
南極と調査地周辺の地図
第1章 なぜ南極なのか?
第2章 砕氷艦「しらせ」の旅
第3章 南極を歩く—ラングホブデ
第4章 南極の風景—スカルブスネス
第5章 南極の湖とコケ坊主
第6章 さらば南極
ふたたび
あとがき
本書の味わいどころ①
南極大陸は過酷、いや結構楽しそう
南極大陸は気温も低く、
氷に閉ざされた極寒の世界。
そんなイメージがありました。
でも、それは冬の一定期間のこと。
夏は0℃前後で気温が推移
(昭和基地付近)するため、
東北地方の真冬程度(それでも十分に
寒いのですが)なのでした。
しかも大陸ですから、すべてが
雪に覆われているわけではなく、
夏であれば岩石だらけの大地が露出し、
湖沼も凍結せずに
液体の水を湛えているという
風景なのでした。
越冬隊の過ごす冬はともかく、
筆者の参加した夏隊は、
決して冬山登山のような
状況ではないようです(それでも
ブリザードの様子が書かれてある)。
その中で楽しみながら
研究や作業を行っている筆者たち
隊員の姿が印象的です。
特に食事風景。
過酷な環境の中で宇宙食のようなものを
食べていると思っていましたが、
ごく普通の食生活を
楽しむことができるのでした。
この、南極大陸は
過酷なばかりではないということ、
そして隊員たちは工夫しながら
楽しんで過ごしていること、
それらを知ることこそ、
本書の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。
本書の味わいどころ②
調査研究は難解、いやいたって地味
大学機関での調査研究ですので、
難解なことだらけと思っていましたが、
書かれてあることは
決してそうではありませんでした。
肉体労働の部分が大きいのです。
重い荷物を運んだり、
器具や設備を組み上げたり、
試料を採取したり、
かなり地味な作業の連続です。
実際の分析(頭脳労働)は
大学に帰還してからの
作業になるのでしょう。
南極の現地では、その分、
肉体労働が主となっています。
こうした地道な作業の末に、
高度な研究があるのだという事実を
知ることこそ、本書の
第二の味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。
本書の味わいどころ③
クマムシは特殊、いやどこでも存在
そのクマムシですが、肉眼では見えない
(0.05~1.7mmらしいので、
大きいものなら見える)のですが、
実はいろいろな場所に潜んでいる、
つまりどこにでも存在している
生き物だということです。
そのクマムシは南極のコケの
集まりの中にも生息していて、
それらを調査するために筆者は
南極調査隊に加わったとのことでした。

ところが…、クマムシ調査は
数カ所に記述されているだけで、
本書の主役ではないのです。
クマムシ目当て(そんな読者がいる?)で
読む本ではありません。
あくまでもクマムシ研究者である
筆者の、「南極調査苦労話」なのです。
でも、だからこそ、
難しい話は一切登場しません。
クマムシを知らない中学生でも
安心して読み進めることができます。
そして大学での研究生活や、
南極調査の面白さを、
素直に感じることが
できるのではないかと思うのです。
クマムシそっちのけで語られる
筆者の苦労話こそ、本書の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。
中学生、高校生に薦めたい一冊です。
もちろん大人のあなたが読んでも
十分に楽しめる上、新しい知見が
広がること間違いなしです。
ぜひご賞味ください。
(2025.6.16)
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