「ぼくらの中の発達障害」(青木省三)

発達障害は「文化」、ぼくもあなたも発達障害。

「ぼくらの中の発達障害」(青木省三)
 ちくまプリマー新書

発達障害とは一つの文化であり、
同時に多くの人の
内にもある文化だと、
僕は思っている。
発達障害を持ち、
さまざまな生きづらさを
抱えた人たちに、
自らに誇りをもち、
胸を張って堂々と
生きて行って欲しい。
本書が少しでもその…。

中学校の現場では、
特別な支援の必要な生徒、いわゆる
発達障害を抱えた子どもたちが
急増しています。
発達障害と一くくりに
されているのですが、
診断名だけとっても
「自閉症」「アスペルガー症候群」
「広汎性発達障害」
「自閉症スペクトラム」など
たくさんあり、
どれがどのように異なり、
どのような支援が必要なのか、
簡単には理解できません。
教員でさえこの有様ですから、
教育の現場に関わらない
一般の方にとっては
なおさら「?」ではないでしょうか。
そう思っていたとき、
素敵な本を見つけました。

〔本作品の構成〕
はじめに
序章 「あの人」」と僕は
    本当に違うのだろうか?
第一章 発達障害ってどんなもの?
第二章 社会性の障害とは何だろうか?
第三章 コミュニケーションの障害とは
    何だろうか?
第四章 こだわりとは何だろうか?
第五章 「発達障害」を考える
第六章 発達障害を持つ人たちへの
    アドバイス
第七章 周囲の人たちへのアドバイス
最終章 君も僕も発達障害
あとがき/参考文献

本作品の味わいどころ①
発達障害は「長所」という見方

いくつかの発達障害について、
本書はことさら
細かく区分してはいません。
それらに共通している部分が
大きいからです。
それよりも大切なのは、
一般的には「短所」として
とらえられがちの発達障害を、
「長所」という視点から
解説しているのが本書の特徴でしょう。
著者は自身の手がけた発達障害の方々の
体験等を例示しながら、
それがどのように定型発達の人たち
(通常の人たち)とちがった
「長所」になっているのか、
わかりやすく説明しています。
この、発達障害を「長所」としてとらえ、
それが「障害」などではなく、
人間としての能力の在り方の一つだと
認識し直すことこそ、
本書の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

私自身も、発達障害をとらえるときに、
苦手なことやできないことを
基準にして考えてきましたが、
それはあまりにも一面的な見方だったと
気づかされました。
目から鱗が落ちる感覚を味わいました。

本作品の味わいどころ②
発達障害は白黒ではなく濃淡

近年はさまざまな発達障害を
明確に区別せず、
「自閉症スペクトラム」として
扱うことが多いようです。
「スペクトラム」という
横文字が入ったために
一層わかりにくくなっているのですが、
「Spectrum」つまり物理学での
「スペクトル」と同一です。
プリズムを通した光が
分光スペクトルを生じるように、
さまざまな「発達障害」は
連続しているものであり、
かつ「定型発達」と「発達障害」もまた
連続して明確な境界を
持たないものであることを、
筆者は的確に説明しています。
この、「発達障害」と「定型発達」は
白黒明確に区別できるものではなく、
程度の濃淡にしか過ぎないと
認識し直すことこそ、本書の
第二の味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

私もそうしたことをこれまで
漠然ととらえてはいたのですが、
本書の明確な説明により、
整理して理解することができました。

本作品の味わいどころ③
発達障害は「文化」という視点

したがって、「発達障害」は
「定型発達」と比較して
何かが欠けていたり劣っていたり
しているのではなく、
そもそも両者は異なる文化の中で
生きていたということなのでした。
それを踏まえて
お互いに理解し合うことが
大切ということなのでしょう。

そしてそれに留まらず、
著者はさらなる提言を行っています。
「自閉」を持つ人が、
集団の「自閉」を切り開く可能性がある。
コミュニケーションが
障害されていることは、
本質的なコミュニケーションを生む
可能性がある。
こだわりは、深く考え抜く能力として、
また、変わらない一貫した
ブレない考え方や生き方として
価値を発揮する可能性がある。
それぞれが
何を意味しているかについては、
ぜひ読んで
確かめていただきたいと思います。
この、
発達障害は「分化」という視点からの、
矢継ぎ早に放たれる
筆者の鋭い見解こそ、
本書の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

さて、他書とは異なる
このような分析や提言がなされている
大きな要因は、筆者自身が自らを
発達障害を抱えた人間としてとらえ、
そのことに誇りをもって
生きているからに
ほかならないでしょう。
あの人の中にも発達障害があり、
私の中にも発達障害があり、
あなたの中にも発達障害がある。
そう理解できたとき、
世の中が少しだけ
広くなるような気がするはずです。
なんとなく
生きづらさを感じているあなたも
そうでないあなたも、
ぜひご賞味ください。

(2025.6.23)

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