「何のために学ぶのか」(桐光学園+ちくまプリマー新書編集部編)

学ぶ理由を考える、これこそが「学び方改革」

「何のために学ぶのか」
(桐光学園
  +ちくまプリマー新書編集部編)
 ちくまプリマー新書

「どうすれば大学に入れるか」の
ガイドは世間に溢れています。
でも
「大学で何を学べるのか」について
良質なアドバイスは
まだまだ少ない。
そこで、知の最前線で
ご活躍の先生方を迎え、
大学でなされている
クオリティのままに「学問」を…。

学ばない子どもたちが増えてきました。
それも加速度的に。
ネット環境が普及し、
ゲーム、SNS、YouTube等々、
さまざまなコンテンツが
提供されるにつれて、
子どもたちはそれらにのめり込み、
学ぼうとしなくなっているのです。
そんな時代だからこそ、
子どもたちに学ぶことの大切さを
考えさせることが重要だと感じます。
本書は、まさにそのための一冊です。

〔本書の構成〕
知ること、考えること(外山滋比古)
独学する心(前田英樹)
学問の殻を破る(今福龍太)
脳の上手な使い方(茂木健一郎)
生物学を学ぶ意味(本川達雄)
学ぶことの根拠(小林康夫)
「賢くある」ということ(鷲田清一)

本書の味わいどころ①
学ぶ理由を自ら考える

本書は七人の学者たちによる
「学ぶこと」についての
講義集の体裁をとっています。
といっても当然のことながら、
「勉強しないと高校に入れないぞ」だとか
「勉強しないと一流企業には
採用されないぞ」といった
目先の単純な価値観ではありません。
各氏の独特な見解が展開していきます。
外山滋比古氏はいきなり
「100点満点は人間の目指すべき
ところではない」と切り込み、
今福龍太氏は「世界の波打ち際に向けて
自分を開いておく」ことの
魅力を語ります。
本川達雄氏が
動物の寿命をひもときながら
学問の意味を問いかけると、
小林康夫氏は「エラーする力」が
世界を変える原動力という視点で
読み手の価値観を揺さぶります。
各氏の文章は、決して
自らの意見を押しつけるのではなく、
あくまでも読み手として
想定されている子どもたちに
「考えさせる」
語り口となっているのです。
この、各氏それぞれの独自の切り口と
魅力ある語り口による、
学ぶ理由についての問いかけこそ、
本書の第一の味わいどころなのです。
しっかり味わいましょう。

本書の味わいどころ②
これこそ「学び方改革」

では、どのように学ぶべきか?
本書の執筆陣は、
それに対しても示唆を与えています。
前田秀樹氏は、
二宮金次郎の読書を引き合いに出して
「独学」こそ学びの原点であることを
説きます。
茂木健一郎氏は、「取扱説明書のない」
脳の「使い方」について、
自らの体験を交えた内容で
鋭く解説しています。
最後の鷲田清一氏は、
現代における「賢くある」姿について、
近代社会の成り立ちまで遡って
論じています。
この、各氏それぞれの新時代の学び方、
いわば「学び方改革」こそ、
本書の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本書の味わいどころ③
「知の冒険」を読書から

そして各氏の講義の末尾には、
「若い人たちへの読書案内」として、
各氏がそれぞれ推す
三冊を取り上げています。
「学び」とは
誰かから教えられる行為ではなく、
自ら取り組んでいく
創造的なものであること、
そして「読書」こそが自ら学ぶ
第一歩であるということなのでしょう。
それぞれの三冊は、
私たちもよく知っているものもあれば、
かなり難解そうなものもあります。
しかしそのどれもが
「読んでみたい」と思わせるような
魅力を感じさせるものばかりです。
この、「知の冒険」の道しるべともいえる
「読書案内」こそ、本書の第三の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

本書を、学ぼうとしない子どもたちに
読ませたいのですが…、
無理でしょうね。
本書を手にする子どもたちは
すでにある程度の「学び」が
完了している子どもたちであり、
学ぼうとしない子どもは
本書など見向きもしないでしょう。
「学び」に向かわせるというのは、
本当に難しいものです。
まずは大人のあなたから、
ぜひご賞味ください。

(2025.6.30)

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