
正義対邪悪!わかりやすい構図のリライト版
「地獄の仮面」(江戸川乱歩)ポプラ社
三谷が愛した女性・
しず子を狙う怪人「唇のない男」。
怪人は音もなく現れ、
煙のように消え去る。
しず子の息子・茂が誘拐され、
続いてしず子もまた行方不明、
さらには謎の訪問客が殺され…。
三谷は探偵・明智小五郎に
捜査を依頼する…。
昨日取り上げた江戸川乱歩の「吸血鬼」と
ほぼ同じ粗筋を掲載してしまいました。
実は筋書きはほぼ同じ。
本作品は「吸血鬼」を
子ども向けにリライトしたものです
(リライト作家は氷川瓏)。
ポプラ社少年探偵シリーズは、
全46巻のうち、27巻以降の20巻は
少年向けリライトものです。
中には設定や筋書を
大きく変更しなければならなかった
作品もあるのですが、
本作品は基本的には同一です。
「吸血鬼」自体が
ジュヴナイル的内容である上、
文代夫人や小林少年も
登場しているのですから、
変更すべき点は
ほとんどなかったわけです。
〔主要登場人物〕
畑柳しず子
…美貌の未亡人。二十五歳。
温泉宿では柳しず子と名乗っていた。
畑柳茂…しず子の息子。六歳。
畑柳庄蔵
…しず子の夫。獄中で病死。
斎藤…畑柳家の執事の老人。
お菊…畑柳家の女中。
シグマ…畑柳家の愛犬。
三谷房夫
…二十五、六歳の青年。
温泉宿でしず子と知り合い、
恋仲となる。
岡田道彦
…三十五、六歳の芸術家。
三谷としず子をめぐって決闘、
敗れ去る。溺死体で見つかる。
「唇のない男」(蛭田嶺蔵)
…しず子を付け狙う謎の怪人。
顔を強酸で焼いたらしい。
園田黒虹
…怪しげな探偵小説作家。
「唇のない男」の仮面を被って死亡。
小川正一
…畑柳家を訪問した謎の客。
何者かに殺害された後、死体が消失。
中村警部
…捜査主任。警視庁警部。
明智小五郎
…私立探偵。
三谷の依頼で捜査に乗り出す。
明智文代
…女性探偵助手。誘拐される。
小林
…少年助手。十五、六歳。
〔事件の概要〕
①三谷・岡田が決闘、
岡田、溺死体で発見。
②温泉宿に「唇のない男」現れる。
③茂誘拐される。
混乱の中、倭文子も誘拐される。
④小川なる人物が訪問、
死体で見つかるが、その後消失。
⑤中村警部、畑柳邸を検分中、
「唇のない男」出没。追跡した空き家で
倭文子母子発見、保護。
⑥三谷、明智に捜査依頼。
⑦明智の留守中、文代、誘拐される。
⑧明智・警察、国技館を捜索、
文代保護、明智負傷。
⑨「唇のない男」気球にて逃亡。
⑩気球、品川湾に落下。
ボート爆発炎上、怪人死亡。
⑪執事・斎藤、刺殺される。
犯人はしず子?
⑫棺の中に潜んでいた倭文子・茂、
火葬されかかるが、三谷が救出。
⑬畑柳邸で明智、事件の謎解き。
真犯人逃走。
⑭アジトにて真犯人焼死。
原型作品「吸血鬼」の味わいどころとして
昨日次の三点を挙げました。
①奇術を使う!怪人「唇のない男」
②明智小五郎ファミリー揃い踏み
③少年探偵団転身への濃厚な気配
少年向け作品としてみたとき、
その味わいどころは微妙に異なります。
本作品の味わいどころ①
奇術を使う!怪人「唇のない男」
ジュヴナイル・ミステリには
「怪人」が必要です。
少年探偵団シリーズであれば
おなじみの怪人二十面相。
それも第二作以降は
「黒い魔物」「妖怪博士」「青銅の魔神」
「透明怪人」「宇宙怪人」と、
二十面相自体がさらに
化け物キャラ化して登場するという
念の入れようでした。
しかし本作品に登場するのは
「唇のない男」。
顔が焼けただれ、
唇を失ったという設定です。
名称からインパクトに欠けるとおり、
この怪人は、二十面相に比べれば
かなりおとなしい活動です。
なぜなら変装ができないため、
読み手の子どもたちを
あっと言わせるような展開が
困難だからです。
しかし神出鬼没である点は
二十面相に引けを取りません。
突然現れたかと思うと突然消える。
ボートの爆発炎上で死んだかと思えば、
再びよみがえり罠を仕掛ける。
明智に対しては
三度に渡って脅迫状を突きつける。
読み手には奇術使いとしか思えない
悪役なのです。
しかも「顔の焼けただれた男」という
設定の方が、
なまじ妖怪博士だの
青銅の魔神だのといった
非現実的キャラよりも、
子どもたちにとっては恐怖の度合いが
大きいのではないかと考えます。
この、恐怖の権化のような神出鬼没の
怪人・「唇のない男」の存在こそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ②
団体で戦う!明智小五郎事務所
「吸血鬼」では、
明智と結婚し「文代夫人」となった経緯が
説明されてあるのですが、
本作品ではカットされています。
おそらく「吸血鬼」以後に執筆された
少年探偵団シリーズに
すでに文代が登場している関係なのか
(あるいは単に面倒だったのか?)、
あえて「夫人」とは記載せず、
「女探偵助手」という説明に
とどまっています。
したがって「吸血鬼」では
「明智小五郎一家」だったのですが、
本作品では「明智小五郎事務所」という
印象です。
「吸血鬼」同様、明智と同程度に、
文代と小林少年が活躍します。
乱歩は、この二人に
あえて活躍の場を与えるために、
明智に負傷させたのではないかと
考えられます。
誘拐されるものの相手の正体に気づき、
相手の麻酔薬をすり替えて
罠にかかったふりをして窮地を脱する。
敵アジトを見張り、
とらわれていた人間を救出する。
真犯人を尾行し、その動きを監視する。
まさに「明智小五郎事務所」という
団体としての捜査が
完成しているのです。
この、明智小五郎事務所の
チーム戦の姿こそ、本作品の
第二の味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ③
正義対邪悪!わかりやすい構図
「吸血鬼」との最大の相違点は何か?
それは敵アジトの消失にて
筋書きが終了している点です。
「吸血鬼」では、
本作品の「事件の概要」⑭以下に、
次のように続きがあります。
⑮倭文子(しず子)、刺されて死亡。
犯人の姿なし。
⑯明智、真相看破。犯人自害。
実はこの部分、それまで
悲劇のヒロインだった倭文子(しず子)の
悪女的(というか不道徳的というか)な
一面が強調され、その結果、
彼女は殺害されてしまうのです。
それがバッサリと切り捨てられたため、
しず子は可哀想な被害者のまま、
結末を迎え、
しかもきちんと生き延びるのです。
これにより正義と悪の境界が明確となり
子どもたちにとって事件の構造が
理解しやすくなっていることは
間違いありません。
この、正義対悪のわかりやすい構図こそ
本作品の第三の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。
さて、もちろん
マイナーチェンジは多々あります。
大人目線でいうと、
「吸血鬼」で一糸まとわぬ素裸で
氷柱に閉じ込められていた母子が、
本作品では裸体なのか着衣状態なのか、
説明がありません。
あの土曜ワイド劇場の乱歩シリーズでは
「氷柱の美女」と改題されるくらいの
代表的場面は、
当然のごとくぼやかされています。
そうした「旨味」を割愛しながら、
少年向けに新たな「味」を
付加していかなくては
ならないのですがから、
リライト作業は大変なのでしょう。
今どきの少年はこのような作品は
読まないでしょうから、
昭和の時代に少年だったあなたに
お薦めします。
すでに読んでいらっしゃるかも
しれませんが。
(2025.8.14)
〔関連記事:「吸血鬼」〕

〔関連記事:少年探偵団シリーズ〕



〔少年探偵シリーズ・リライト版〕


Amazonで探すことは可能です。
「27 黄金仮面」
「28 呪いの指紋」
「29 魔術師」
「30 大暗室」
「31 赤い妖虫」
「32 地獄の仮面」
「33 黒い魔女」
「34 緑衣の鬼」
「35 地獄の道化師」
「36 影男」
「37 暗黒星」
「38 白い羽根の謎」
「39 死の十字路」
「40 恐怖の魔人王」
「41 一寸法師」
「42 蜘蛛男」
「43 幽鬼の塔」
「44 人間豹」
「45 時計塔の秘密」
「46 三角館の恐怖」


【今日のさらにお薦め3作品】



【こんな本はいかがですか】




