
自らの運命を切り拓いている主人公たち
「百年文庫093 転」ポプラ社
百年文庫第93巻、テーマは「転」。
人生の「転」機を迎えた人間の姿が
描かれた三編が集められています。
しかしそれは
運命に翻弄されているわけではなく、
自らの運命を切り拓いているというのが
共通しているところでしょうか。
〔「百年文庫093 転」〕
黒い小屋 コリンズ
割符帳 アラルコン
神様、お慈悲を! リール
「黒い小屋 コリンズ」
おねえちゃんは今、
この家で一人っきりなんだよな。
可愛い声で悲鳴を挙げてみても、
近くには誰もいないしな。
素敵な財布と銀のスプーンを
もらいたいだがね。
欲しい物をもらったら
さっさと引き上げることを
約束するよ、だけど…。

〔「黒い小屋」味わいどころ〕
①読み手の心に事件の予告
②押し寄せる現実的な恐怖
③最後に清涼剤的逸話挿入
娘が一人で過ごす夜、
荒くれ者が家に押しかけてくる。
周囲に民家はなく、
助けを呼ぶことはできない。
娘にとっては恐怖の一夜以外の
何ものでもありません。
恐怖の一夜の体験記録で終わっていれば
本作品はかなり後味の悪いものに
なっていたでしょう。
当然、ハッピー・エンドが
しっかりと用意されています。
命懸けで主人から預かった財布を
守り通した「私」の人柄に魅せられた
農園の若旦那が求婚してくるのです。
まさに人生の「転」です。
物語は爽やかな余韻さえ残して
美しい結末を迎えるのです。
これによって本作品は
単なるホラー小説などではなく、
人間の強さを讃える
純文学にまで昇華しているのです。
「割符帳 アラルコン」
ブスカベアタ爺さんが
丹念に育てた南瓜は、
収穫を迎えた朝、
何者かに盗まれ、
畑から消えていた。
盗まれた南瓜は
カディスへ運ばれたに違いない。
そう見当をつけた爺さんは、
桟橋へと急いだ。
その前に爺さんは、
二十分ばかり畑で…。

〔「割符帳」味わいどころ〕
①ブスカベアタ爺さんの
あるべき農業の姿
②ブスカベアタ爺さんの
明晰な頭脳と考察
③ブスカベアタ爺さんの
警察顔負けの捜査
筋書きは至って簡単、
ブスカベアタ爺さんが見事に
南瓜どろぼうを捕まえるという、
軽妙でおかしみのある作品なのです。
丹精込めてつくった南瓜が盗まれても、
ブスカベアタ爺さんは
泣き寝入りしません。
四十個の南瓜の捜索のため、
すぐさま行動を起こします。
売却の可能性の高い
カディスの市場にいち早く駆けつけた
ブスカベアタ爺さん。
もちろんすぐ自分のつくった南瓜を
見つけ出し、警察に報告します。
「小売商人」の証言により、
犯人はフラーノ父つぁんであることも
早々に判明します。
しかし当然、
その南瓜が自らのものであることを
立証しなければ、
フラーノを罪に問うことは
できないのです。
さて、ブスカベアタ爺さんは
いかにして立証するか?
それが本作品の肝であるとともに、
「転」でもあるのです。
ぜひ読んで確かめていただきたいと
思います。
「神様、お慈悲を! リール」
大聖堂の南玄関の
一等地をあてがわれ、
許可書まで手に入れている
物乞いのハンス。
老境にさしかかった彼は、
同業の若者・ファイトに
豊かな乞食の才能を見出す。
彼はファイトを
我が子のように愛し、
秘策や奥義を伝授していくが…。

〔「神様、お慈悲を!」味わいどころ〕
①乞食を極めようとする二人
②一芸秀でる者は多芸に通ず
③乞食道に復活できるか否か
老いたハンスと若いファイトの二人は、
「乞食」という生き方に
誇りを持っています。
その二人が師弟のように結ばれて、
乞食道を精進するのです。
しかし二人に転機が訪れます。
宗教改革の嵐が押し寄せ、
カトリック派の僧侶のみならず、
乞食もまた同じように
排斥されていったのです。
ファイトはそれを機に、
一般市民として生きる決意をします。
それが一つめの「転」です。
しかし再びカトリック派が
巻き返しを図ります。
その結果、彼は一般市民としての
生き方に疑問を持つのです。
これが二つめの「転」となります。
ファイトは乞食道に戻るのか、
いや、戻れるのか?
こちらもぜひ読んで
確かめていただきたいと思います。
「黒い小屋」の「私」も、
「割符帳」のブスカベアタ爺さんも、
「神様、お慈悲を!」のファイトも、
それぞれの人生の「転」を
見事に乗り切り、幸せなその後を
送ることに成功しています。
それは「運」のせいではありません。
確かに「転」となる危機的状況は、
「運」がもたらした厄災でしょう。
しかしそれぞれが得た結果は、
あくまでも自身の選択の延長なのです。
「転機」が訪れたとき、
どのような選択の決断を下せるか、
そこにその人の人間性が表れてくると
いうことでしょう。
三編とも、ぜひご賞味あれ。
(2025.8.20)
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