
難しい家族の「絆」、でもほんのりハッピーエンド
「家族シアター」(辻村深月)
講談社文庫
姉・由紀枝の結婚式。
姉からの手紙を読んだ「私」は、
中学校時代を思い出す。当時、
由紀枝は「真面目な子」だった。
それは「イケてない」ことであり、
分厚い眼鏡とお下げの髪は
「ブス」だった。
「私」は由紀枝と姉妹であるのが
いやだった…。
(「「妹」という祝福」)
〔「「妹」という祝福」主要登場人物〕
「私」(山下亜季)
…語り手。真面目に生きている姉を、
中学時代は快く思っていなかった。
山下由紀枝
…「私」の年子の姉。
真面目な性格で成績もよい。
裕香…「私」の友達。
遠藤卓人
…「私」が憧れていた同級生。
バスケット部。
広瀬ゆかり
…由紀枝と同学年の不良少女。
辻村深月の「家族」をテーマにした
連作短編集です。
どうにも難しい家族の「絆」を描いた
七篇が収録されています。
「俺」はアイドルグループ
「ミントガールズ」の
ファンクラブを結成、
応援している。
真矢子はロックバンド
「ナインソウルズ」の
追っかけに熱中している。
話が合うはずもなく、
姉弟仲はうまくいかない。
ある日
ナインソウルズが解散し…。
(「サイリウム」)
〔「サイリウム」主要登場人物〕
「俺」(ナオさん・尚弘)
…語り手。ミントガールズの
ファンクラブを運営している。
真矢子
…「俺」の姉。ナインソウルズの
ベース・藍華を熱愛している。
丹澤
…ファンクラブ運営者の一人。
かっち
…ファンクラブ運営者の一人。
「俺」の幼なじみ。
北郷瑠未名
…ミントガールズの一員。
「俺」が誕生会を企画。
〔「家族シアター」収録作品〕
⑴「妹」という祝福
⑵サイリウム
⑶私のディアマンテ
⑷タイムカプセルの八年
⑸1992年の秋空
⑹孫と誕生会
⑺タマシイム・マシンの永遠
「私」は娘・えみりと
なかなか話が合わないことに
戸惑いを感じる。
成績が優秀なえみりは
夫・秀一郎に
似たのかもしれない。
ある日、えみりが学校で倒れ、
それ以来、
態度は一層頑なになる。
「私」は思い切って尋ねる。
「ひょっとして妊娠…。
(「私のディアマンテ」)
〔「私のディアマンテ」主要登場人物〕
「私」(豊島絢子)
…語り手。娘を心配に思うが、
話がかみ合わない。
豊島えみり
…「私」の娘。高校二年生。
成績優秀であり、進学校の特待生。
豊島秀一郎
…えみりの父親。公務員。
桃江…「私」の兄嫁。
小桃…桃江の娘。
田中先生…えみりの担任。
本作品の味わいどころ①
あるある家族のすれ違い
最後の一篇⑺以外はすべて、
家族のすれ違いが描かれています。
家族の関係を良好な状態で保つのは、
意外に難しいのです。
特に年頃の家族がいる場合は。
⑴は「私」と姉、
⑵は「俺」と姉、
⑶は「私」と娘、
⑷は「私」と息子、
⑸は「私」と妹、
⑹は「俺」と孫、すべてすれ違います。
なぜすれ違うか?
「家族だからわかっているはず」という
思い込みが
一方もしくは両方にあるからでしょう。
他人であれば気持ちが通じ合わなくても
「それが当たり前」と
割り切れるのですが、
家族である分、ついつい相手に
甘えてしまうのでしょう。
作品の中にとどまらず、
私たちの家族どうしの中にも
見られがちな、
家族のすれ違いの実状を
客観的に眺めることこそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。
「私」は息子・幸臣の
初出勤を見送る。
念願の小学校教師となったのだ。
その学校には、
かつて幸臣の六年生の時の担任・
比留間がいるのだという。
「私」は彼についての
面白くない話を思い出す。
小学校の卒業記念の
タイムカプセルを彼は…。
(「タイムカプセルの八年」)
〔「タイムカプセルの八年」
主要登場人物〕
「私」(水内孝臣)
…語り手。大学教員。
子どもが小学校のとき、子どもとの
間がうまくいっていなかった。
水内幸臣
…「私」の息子。小学校六年生からの
夢である小学校教師となる。
水内温子
…「私」の妻。実家はタバコ屋。
小松
…幸臣の同級生・ユカリの父親。
沢渡
…幸臣の同級生・剛の父親。
親父会の中心メンバー。
「私」を「タバコ屋」と呼ぶ。
比留間…幸臣の六年生の担任。
本作品の味わいどころ②
あるある関係の修復過程
すれ違いは生じるものの、
描かれている家族は
すべてそれを乗り越え、
関係を修復していきます。
何気ない一言が
すれ違いの原因となるように、
何気ないきっかけで
関係が修復するのも家族だからです。
ただし六つの家族それぞれが
簡単に良好な関係を
取り戻したわけではありません。
ある程度の時間をかけなければ
ならなかったものもあれば、
痛みを伴ったものもあるのです。
それもまた私たちの日常と同じであり、
この関係修復の物語こそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。
「私」は学研の「学習」を買うが、
妹のうみかは「科学」だ。
ほかの女の子とは違って、
化学や生物、とりわけ
宇宙のことが大好きなのだ。
「私」はそんなうみかを
疎ましく思う。
「私」がうみかとの約束を
破った日、
うみかは鉄棒から落ちて…。
(「1992年の秋空」)
〔「1992年の秋空」主要登場人物〕
「私」(はるか)
…語り手。小学校六年生。
毎月「学研の学習」を購読。
うみか
…「私」の妹。小学校五年生。
毎月「学研の科学」を購読。
美菜…「私」のクラスメイト。
湯上…「私」の学級担任。
本作品の味わいどころ③
ほんのりハッピーエンド
関係は修復しても、
劇的なハッピーエンドとはなりません。
「ようやく嵐が収まった」程度の
ものもあれば、
「とりあえずは改善したものの
将来まだまだ油断はできない」といった
レベルのものもあります。
それもまた家族の姿なのです。
「家族の絆」とは
よく使われるキーワードですが、
「絆」という「つな」は、細い「糸」を、
時間をかけて努力して紡いでいき、
太い「綱」にしていくべき
性質のものなのでしょう。
だからこそ、六篇それぞれの結末は
「幸せの兆しが見えた」くらいのところで
終わっているのです。
それがちょうどいいのです。
さらには短編集全体の
結末という意味でしょうか、
⑺がごく短い作品ながら、
さりげない幸せを提示して
閉じられています。
この、決して大げさにはならない、
ほんのりとしたハッピーエンドこそ、
本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。
米国から帰ってきた長男一家と
同居することになった「俺」は、
孫・実音と気持ちが通じ合えずに
悩む。
聞けば実音は向こうの学校で
友達づくりが
うまくいかなかったらしい。
実音の小学校から
竹とんぼづくりの講師を
依頼された「俺」は…。
(「孫と誕生会」)
〔「孫と誕生会」主要登場人物〕
「俺」(木原)
…語り手。
妻に先立たれて一人暮らしだった。
木原孝治
…「俺」の長男。仕事のため
一家でアメリカに渡っていた。
木原美貴子
…孝治の妻。
木原実音
…「俺」の孫。孝治・美貴子の娘。
小学校三年生。
アメリカの学校で友達づくりに失敗。
リサ・エリ・マナカ・サツキ
…実音の同級生。
息子・伸太、妻・希美とともに
帰省した「俺」は、
ふと希美との馴れ初めとなった
ドラえもんの
「タマシイム・マシン」を
思い出す。過去の自分と
魂だけが入れ替わるという
アイテムだった。
伸太のかわいがられようを見て、
「俺」は思い出す…。
(「タマシイム・マシンの永遠」)
〔「タマシイム・マシンの永遠」
主要登場人物〕
「俺」…語り手。
希美…「俺」の妻。
伸太…「俺」と希美の息子。
「ばあちゃん」…「俺」の祖母。
「じいちゃん」…「俺」の祖父。故人。
「母さん」…「俺」の母親。
「親父」…「俺」の父親。
さて、考えるべきは
「家族の在り方」なのでしょう。
価値観が多様化し、家族の在り方も
大きく変わろうとしています。
大切なのは自分本位にならず、
家族の気持ちと
家族の未来を考えるという、
ごく当たり前のことしか
ないのかもしれません。
私はすでに子育てを終えた関係上、
参考にすべきは
⑹の「俺」と孫娘の関係でしょうか。
いやいや、その前に「私」と妻、の関係が
壊れないようにしたいのですが…、
本作品にはそれを素材とした作品は
ありません。
自分で考えるしかなさそうです。
(2025.8.25)
〔関連記事:辻村深月の作品〕
「島はぼくらと」
「仁志野町の泥棒」
「サクラ咲く」
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