
古典的トリック、そして法廷での大逆転劇
「茶の葉」
(ジェプスン&ユーステス/阿部主計訳)
(「世界推理短編傑作集3」)
創元推理文庫
娘と喧嘩別れしたウィラトンに、
ケルスタンは激怒する。
彼はウィラトンに対して
徹底的に嫌がらせをしたが、
いつも顔を合わせていた
トルコ風呂で
ついに悲劇が起こる。
ウィラトンが出た後の浴場で、
ケルスタンの死体が
発見され…。
アンソロジー「世界推理短編傑作集3」に
収録されている一篇です。
「作者の名前は
聞いたことがないけれども
このトリックは知っている」と
思わずつぶやいてしまうような
作品です。
さて、どんな事件が展開するのか?
〔主要登場人物〕
ウィラトン
…恋人・ルースと喧嘩別れするが、
心の底では後悔している。
ケルスタンとは風呂友達。
ルース
…ウィラトンの元恋人。
よりを戻したい気持ちがある。
法廷で科学的証拠を提示。
ケルスタン
…ルースの父親。
ウィラトンとは風呂友達。
激昂しやすい性格。
トルコ風呂で殺害される。
ヘルストン
…ケルスタンの死体を発見。
ヘイゼルディーン
…ウィラトンの顧問弁護士。
アーバスノット
…ヘイゼルディーンの息子。
ウィラトンの弁護士。
ハムリー
…ウィラトンの弁護士。
グレイトレクス
…事件の主任検事。
モズリー教授
…ルースの科学的証拠の
正当性を証言。
本作品の味わいどころ①
古典となった傑作トリック
殺人現場に凶器がない。
現場はトルコ風呂、隠す場所はない。
当然みな裸であり、
タオルなどに隠せはしない。
鑑識の結果、
凶器は小さなものではなく、
それなりの大きさがあった。
浴場の窓から
投げ捨てられる状態ではない。
ではいったい凶器はどこに消えた?
現代となってはもはや
バレバレのトリックなのですが、
それを最初に用いたのが
本作品なのです。
作品鑑賞はあくまでも
その作品が書かれた時代に
立ち返って行うべきもの。
現代に引き寄せてはいけません。
作品発表は1925年。
今からちょうど100年前、
日本では乱歩や横溝が
まだ駆け出しだった頃です。
そのような時代に、
この画期的なトリック。
当時の英国の
ミステリ・ファンにとっては
衝撃的だったはずです。
同じ目線で、この古典的傑作トリックの
インパクトを味わうことこそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ②
コンパクトな人物設定の妙
では、トリックがバレバレなら、
もはや読む価値はないのか?
いやいや、
トリック以外の部分も傑作であるから、
本作品は廃れることなく
読み継がれているのです。
一つは人物設定が巧みです。
事件関係者は、
死体(被害者)としてケルスタン、
容疑者としてウィラトン、
この二名だけなのです。
死体を発見したヘルストンや、
浴場を出た後にウィラトンと接した
マッサージ師には、
まったく疑念の余地がないのです。
最小限度の人間に
絞り込むことによって、
どう見てもウィラトンが犯人としか
思えないような舞台を
創り上げてしまったのです。
さらに事件の謎を解く名探偵役は、
ルースという女性。
この立ち位置が絶妙です。
殺されたのは父親、
殺した(と疑われている)のは元カレ。
このような状況の中で、
冷静にウィラトンの無罪を
証明していくのです。
この、コンパクトでありながら
巧妙に人物を配した設定こそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ③
緊迫した法廷での大逆転劇
人物設定だけでなく、
後半の緊迫した法廷場面もまた、
本作品の魅力となっているのです。
一種の法廷ミステリと
なっているのですが、
検察官が殺人の秘密を解いて
立証するのでもなければ、
弁護士が無罪を
証明するのでもありません。
先ほど記したように、
事件の謎を解くのはルースなのです。
彼女は単に謎解きをするのではなく、
科学的に証明し、
かつ現場の証拠から
凶器の製造方法と消滅過程を
再現することに成功するのです。
しかも権威ある科学者から
その正当性のお墨付きを得るという
念の入れよう。
それによって法廷場面が
緊迫感を増すとともに、
ルースの謎解きが説得力を持って
読み手に迫ってくる
仕組みとなっているのです。
この、ウィラトンを救いたいという
ルースの思い、そして彼女が見せる
緊迫した法廷での大逆転劇こそ、
本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。
さて、本作品は
エドガー・ジェプスンと
ロバート・ユーステスという
二人の作家による合作です。
両者とも他の作品は我が国においては
ほとんど知られていない割には、
この古典的トリックによって
本作品だけは広く知られるという
状況となっています。
本書「世界推理短編傑作集3」で
その味わいを確かめてください。
(2025.9.5)
〔「世界推理短編傑作集3」〕
三死人 フィルポッツ
堕天使の冒険 ワイルド
夜鶯荘 クリスティ
茶の葉 ジェプスン&ユーステス
キプロスの蜂 ウィン
イギリス製濾過器 ロバーツ
殺人者 ヘミングウェイ
窓のふくろう コール
完全犯罪 レドマン
偶然の審判 バークリー
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