「30代記者たちが出会った戦争」(共同通信部社会部編)

中高生と同じ目線でとらえた「戦争」の姿

「30代記者たちが出会った戦争」
(共同通信部社会部編)
 岩波ジュニア新書

戦後七〇年となった二〇一五年、
共同通信社会部の記者たちが、
戦地に足を運び、
生存者の話に耳を傾けました。
日本兵が
どういった状況に置かれ、
何を考え、
どんなことをしたのかを、
あらためて見つめてみたいと
思ったのです。…。

戦争について幅広い角度からとらえた、
中高生向けに書かれた入門書のような
岩波ジュニア新書の一冊です。
戦後七〇年となった2015年、
共同通信社の30代の若い記者たちが、
戦争の舞台となった各地におもむき
取材を敢行、
その結果を綴ったものです。

〔本書の構成〕
はじめに
序章 戦争の発端と経過
■無謀な戦争
1章 飢餓―腹減らし、逃げ回った
 〔ガダルカナル〕(前田新一郎)
2章 白骨街道
 ―死体に慣れ、人の心なくなった
 〔インパール〕(川村敦)
■激戦地で
3章 玉砕
 ―覚悟の突撃、死にに行くんだ
 〔サイパン島〕(宮城良平)
4章 海戦―敵機で空が真っ黒に
 〔フィリピン・レイテ沖〕(草加裕亮)
■加害を見つめる
5章 ゲリラ討伐
 ―むごい命令、「子どもも殺せ」
 〔フィリピン・ルソン島〕(水島彩子)
6章 爆撃―地上の恐怖、想像もせず
 〔中国・重慶〕(松竹維)
7章 掃討作戦
 ―人は簡単に鬼に変わる
 〔中国・華北〕(上嶋茂太)
8章 従軍慰安婦
 ―人でなく物のように
 〔アジア・南太平洋各地〕(上嶋茂太)
■捕らわれて
9章 抑留―死の恐怖、次は自分か
 〔シベリア〕(藤堂龍太郎)
終章 戦場体験と現在
 ―「回路」をつなげる努力を(吉田裕)
デスクノート
 ―醜い自画像と、重い問い(福島聡)
おわりに
戦争について考えるための、
 おすすめの文献や映画

本書の味わいどころ①
加害被害の両面からの視点

上に記した
本書の構成からわかるように、
本書はその切り口が多様です。
戦時中に日本の軍隊の遭遇した
過酷な体験から始まり、
軍隊の侵した罪深い行為、
そして被害者としての一面まで
幅広い角度から
「戦争」をとらえているのです。
ともすれば日本では
終戦記念日が近くなると
原爆や空襲といった、
民衆の受けた被害体験ばかりが
クローズアップされ、
加害者としての立場からの情報は
影に隠れがちです。
近年は加害者視点での情報発信が
「自虐的歴史観」として
バッシングを受けることさえあります。

そうではなく、
一般人の被害、軍隊の加害、国家の暴走、
そうしたものをすべてひとまとめにして
「戦争」の全体像を
とらえていくことこそが、
中高生にとって
大切なことだと感じます。
本書はそうした意味で、適切な
「戦争」入門書となっているのです。
この、加害者・被害者の両面の視点から
記された立ち位置こそ、
本書の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

本書の味わいどころ②
中高生と同じ目線で捉える

それらを30代の若い記者たちが
取材したことに、
本書の意義があります。
入社したての20代記者にとっては
荷が重すぎるはずです。
40代50代の記者であれば熟練が過ぎて
あざとい記事になりかねません。
「よくわからない」ことを強みにした
誠実な取材姿勢が、結果的として
中高生の共感を得やすい記事に
つながっているのです。
この、中高生と同じ目線でとらえた
「戦争」の姿の提示こそ、本書の
第二の味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本書の味わいどころ③
戦後七〇年の生の声を収録

それゆえ本書は、
過去の出来事の詳細な検証に走らず、
戦後七〇年となる2015年段階での
戦争体験者の生の声を収録することに
徹しています。
戦争が1945年に終結したのではなく、
2015年段階でも
まだその過去が引きずられ、
解決していない問題が
山積していることを
明らかにしています。
それが読み手である中高生に対して
当事者意識の喚起を促すものと
考えられます。
「自分たちは知らない」
「私たちは関係ない」
「すでに終わったこと」という
感覚の強い中高生にとって、
強くはたらきかける内容と
なっているのです。
この、戦後七〇年の生の声を収録した
取材姿勢こそ、本書の第三の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

本書刊行からさらに10年となる
2025年の今年、
本書を再読してみましたが、
本書の価値は薄まるどころか、
ますますその意義を高めています。
薄く広く書かれてあるため、
戦争の特定の分野について
深く調べようという方には
向いていません。
しかし新しい視点で
「戦争」と向き合うきっかけを
探すのであれば、大人の方が読んでも
十分な読み応えがあるはずです。
中高生に、そして大人のあなたに
お薦めしたい一冊です。

(2025.10.6)

〔「戦争」に関わる岩波ジュニア新書〕
「東京が燃えた日」(早乙女勝元)
「綾瀬はるか 「戦争」を聞く」
「綾瀬はるか 「戦争」を聞くⅡ」
「戦争の時代の子どもたち」(吉村文成)
「戦争と沖縄」(池宮城秀意)
「海に沈んだ対馬丸」(早乙女愛)
「新版1945年8月6日」(伊東壮)
「15歳のナガサキ原爆」(渡辺浩)
「中学生の満州敗戦日記」(今井和也)
「私は「蟻の兵隊」だった」
 (奥村和一・酒井誠)

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「ジャーナリストという仕事」
「国境なき医師団が行く」
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