
もはやSF!しかし最後はミステリとしての衝撃的結末
「孔雀屋敷」(フィルポッツ/武藤崇恵訳)
(「孔雀屋敷」)創元推理文庫
亡夫の友人であった老将軍の
招待に応じたジェーン。
彼女はその地にある
孔雀屋敷と呼ばれる家屋で
殺人現場を目撃してしまう。
ところが数日後に訪れると、
そこにあったはずの屋敷はなく、
庭園も荒廃していた。
彼女の見たものは…。
「赤毛のレドメイン家」
「だれがコマドリを殺したのか?」で
知られている英国のミステリ作家
イーデン・フィルポッツの
短篇作品です。
純粋なミステリではありません。
SFがかった設定のある異質な作品です。
しかし大きな衝撃力を持った
最上級のミステリとして
仕上がっているのです。
〔主要登場人物〕
ジェーン・キャンベル
…三十代半ばの教師。孤独な性格。
不思議な能力を持つ。
ジョージ・グッドイナフ
…ジェーンの亡夫の友人。退役軍人。
ジェーンを邸宅ポール館に招待する。
メイ・エリス
…ジェーンが目撃した殺人事件の
被害者。若い女性。
ジョナサン・フォスター
…孔雀屋敷の主。メイの夫。メイを
銃殺する場面をジェーンが目撃する。
ユースタス・ポール
…かつてメイを愛していた若者。
ジョナサンをナイフで刺し殺し
逃亡する場面をジェーンが目撃する。
本作品の味わいどころ①
もはやSF!過去の殺人事件を目撃
ジェーンが見た殺人事件は
いったい何だったのか?
横溝正史のミステリであれば
死体が消えたという設定は
いくつも登場するのですが、
死体どころか殺人の舞台となった
家屋敷自体が消滅しているのです。
どのような摩訶不思議なトリックが
仕掛けられているのか?
ワクワクしながら読みましたが…、
なんとそれは過去(五十年以上前)に
起きた殺人事件を
見てしまったというものなのです。
タイム・スリップして
過去に戻ったのではなく、
彼女は時間を遡る透視能力
(作中では「千里眼」とされている)で
過去の殺人現場を
目撃してしまったのです。
えっ、もしかしてSF?
これミステリじゃなかったの?
そんな疑問を
読み手が差し挟む余裕のないまま、
筋書きは進展します。この、
もはやSFの領域に入り込んでいる
物語序盤の設定こそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ②
女教師と老将軍の殺人事件分析談義
そして中盤、何か衝撃的なことが
起こりそうな予感が…、と思いきや、
なかなか次なる事件は起きません。
それどころかジェーンと老将軍の
殺人事件談義が始まるのです。
不良少年ユースタスが
フォスター夫妻を殺害後に逃亡、
行方知れずとなっているという
地元民の伝承を伝える老将軍に対し、
ジェーンは自分の見たままのこと、
つまりフォスターが
はじめに妻・メイを銃撃し、その後、
ユースタスが机の上のナイフで
フォスターを刺したことを話すのです。
考えられる事件の動機や背景、
ユースタス、メイ、フォスター
それぞれの性格など、
お互いに意見を戦わせます。
五十年以上前の殺人事件の決着は
どのようにつけられるのか?
この、二人の殺人事件分析談義こそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ③
最後に衝撃!ミステリとしての結末
もちろんいくら話し合ったところで
事件の真相に
たどり着けるわけでもなし、
五十年以上前の事件の新証拠が
発見されるわけでもなし、
物語はいったいどこへ帰着するのか?
実は最後に急展開し、
事件の真相が明らかになります。
そして本作品は
SF的設定を取り入れているものの、
作品としての本質はやはり
ミステリであることが示されるのです。
詳しくはぜひ読んで
確かめてくださいとしか
言いようがありません。
この、最終場面に用意された
ミステリとしての衝撃的な結末こそ、
本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。
フィルポッツのミステリ短篇作品の傑作
「孔雀屋敷」。
ぜひご賞味ください。
(2025.10.10)
〔「孔雀屋敷」〕
孔雀屋敷
ステパン・トロフィミッチ
初めての殺人事件
三人の死体
鉄のパイナップル
フライング・スコッツマン号での冒険

〔関連記事:フィルポッツ作品〕


〔フィルポッツの本はいかがですか〕
創元推理文庫からは上の二作品以外にも
「溺死人」「灰色の部屋」「闇からの声」の
3点が刊行されているのですが、
現在絶版です。復刊を望みます。
なお、単行本で二冊、流通しています。

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