
「豊かさ」とは何か、「豊かな生き方」とは何か。
「ほんとうの定年後」(坂本貴志)
講談社現代新書
高年齢者の労働参加に対する
社会的な期待は
年々高まっている。
近い将来、
定年後も働き続けることは
ますます「当たり前」に
なっていくだろう。
こうしたなか、
定年後の働き方について、
どれだけの人がその実態を
知っているだろう…。
定年後の生活はどうなるのか?
一般庶民なら、
誰でも不安に感じるところです。
「老後30年間で
約2000万円が不足する」という
金融審議会の報告書が発表されて以降、
その不安は募るばかりです。
それについては本書が
一つの示唆を与えてくれます。
タイトルはズバリ「ほんとうの定年後」。
〔本書の構成〕
はじめに
第1部 定年後の仕事「15の事実」
1 年収は300万円以下が大半
2 生活費は月30万円弱まで低下する
3 稼ぐべきは月60万円から月10万円に
4 減少する退職金、増加する早期退職
5 純貯蓄の中央値は1500万円
6 70歳男性就業率45.7%、
働くことは「当たり前」
7 高齢化する企業、
60代管理職はごく少数
8 多数派を占める非正規とフリーランス
9 厳しい50代の転職市場、
転職しても賃金は減少
10 デスクワークから現場仕事へ
11 60代から能力の低下を認識する
12 負荷が下がり、
ストレスから解放される
13 50代で就労観は一変する
14 6割が仕事に満足、
幸せな定年後の生活
15 経済とは
「小さな仕事の積み重ね」である
第2部 「小さな仕事」に
確かな意義を感じるまで
第3部 「小さな仕事」の積み上げ経済
おわりに
本書の味わいどころ①
定年後の働き方の実態を知る
定年後は何もせずにのんびり、
というわけには、
これからはいきそうにありません。
子どもたちと同居しない
老夫婦二人の生活、
年金の支給は繰り下げられ、
その額は十分でない以上、
何らかの形で働く必要が生じます。
現在働いている老年世代の方々は、
いったいどのような形で
働いているのか、
そしてどのような気持ちで
働いているのか。
第1部では数値化されたデータで
その「働き方」が提示され、
第2部ではその実例が
紹介されているのです。
定年前に比べて
定年後の支出は減少する、
それに見合った
働き方をすればいいのではないか、
という提言がなされているのです。
この、定年後の働き方の
実態を知ることこそ、
本書の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。
本書の味わいどころ②
働き方への意識の転換を図る
定年後、会社や役所に残って
再雇用されるにせよ、
転職・再就職するにせよ、その賃金は
定年前より大幅に下がることは
避けられないことです。
キャリア・アップを目指して
定年まで全力で働き続けてきた方には、
そうしたプライドが邪魔をして、
年収下落を受け入れられない場合も
あるのではないでしょうか。
本書はそうした考え方に対しても
明快な助言を与えてくれます。
人生100年時代、
自身の成長のみを目的とした
直線的右肩上がり的
キャリア形成ではなく、
年齢を重ねていくどこかで就労観を
転換させなくてはならないことを
筆者は説いています。
この、働き方への意識の転換を図る
手がかりを得ることこそ、本書の
第二の味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。
本書の味わいどころ③
豊かな生き方とは何か考える
つまり、本書が示しているのは
「豊かな生き方」にほかならないのです。
社会もこれから
大きく変化していきます。
少子高齢化によって
需要は変わらなくとも
供給が追いつかない、
労働供給制約時代が
訪れようとしているのです。
その中で、ライフ・ワーク・バランスを
適切に管理しながら、
定年後も「小さな仕事」で
地域社会に貢献し、
その一員として生きていくことこそ、
これからの時代に必要な姿であると
述べているのです。
かつては「お金」こそ
「豊かさ」の象徴でしたが、
これからはそれだけではないはずです。
自分にとって「豊かさ」とは何か、
「豊かな生き方」とは何か、考える
スタート地点となっていることこそ、
本書の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。
私も現在59歳。来年は還暦。
定年延長のため
64歳まで働くことになるのですが、
その後も何らかの形で
仕事を続けていくつもりです。
私のように定年を目前に控えた方に
お薦めしたい一冊ですが、
本書の示している
キャリアについての考え方は、
すべての世代の方に
参考になるはずです。
ぜひご賞味ください。
(2025.10.15)
〔坂本貴志氏の本はいかがですか〕
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