「天変地異の地球学」(藤岡換太郎)

空想地球科学の世界を楽しむ

「天変地異の地球学」(藤岡換太郎)
 講談社ブルーバックス

天変地異のサイクルを
次々にさかのぼっていくことで、
そもそも天変地異とは
何が起こしているのか、
その究極の理由に
たどりつきたいというのが
この本の狙いです。
日本にはどうして
自然災害が集中するのかといった
ことについて…。

地震や火山などの自然災害について
書かれた本はたくさんあります。
しかし本書はそれらにとどまらず、
超巨大災害ともいうべき「天変地異」、
つまり
「あきらめるしかない災害」について、
そのメカニズムを
科学的に解き明かそうとした本です。

〔本書の構成〕
はじめに
序章 天変地異とは何か
第1章 人類が経験した天変地異
第2章 空、海、陸と天変地異
第3章 生物を襲った天変地異
第4章 究極の天変地異
終章 銀河と天変地異
おわりに/参考図書/さくいん

本書の味わいどころ①
天変地異のメカニズムを知る

「あきらめるしかない災害」について
書かれてあるものの、
決してあきらめて
暗くなったりしていません。
天変地異について明るく真面目に
科学の視点で論じているのです。
しかも専門的な知識や用語を極力省き、
一般人にもわかりやすく
説明されてあるのです。

まず、さまざまな天変地異を、
理解しやすく分類しています。
まず、「気象災害」「固体地球災害」
「宇宙災害」という、
災害の発生原因をもとに分類し、
それぞれを丁寧に解説しています。
さらには「防げる災害」
「逃げれば助かる災害」
「あきらめるしかない災害」と、
人間に対する被害の大きさを
もとにした分類も展開、
読み手の「災害観」を広げてくれます。

そして、
これまでの災害に時間軸を取り入れ、
それらがどのような時間スケールで
起きているのかを提示しています。
平安時代と江戸時代の地震と火山を
時系列で並べ、
そこに何らかの関連があることを
視覚的にとらえやすくして
提示しています。

こうした天変地異のサイクルや、
それを引き起こす地球や宇宙の
メカニズムを知ることこそ、
本書の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

本書の味わいどころ②
空想地球科学の世界を楽しむ

災害の予測は難しいものです。
先日(2025年9月26日)、
政府の地震調査委員会は
南海トラフ地震の発生確率について、
これまで30年以内に
「80%程度」としてきた数値を、
今後は「60~90%程度以上」
または「20~50%」と
併記することを発表しています。
一つに絞り込めないための
苦肉の策なのでしょう。
地震でさえそのような状況です。
それ以上の天変地異についてはさらに
発生確率を数値で論じることなど
不可能なのです。
だからなのでしょうか、
著者は本書において
「空想地球科学」と称して、
天変地異の起こるサイクルを
科学的に論じています。
それがまたストンと胸に落ちる
記述であり、説得力があります。
楽しめないはずの災害予知が、
科学的に十分に楽しめます。
「空想」と銘打たれているものの、
その論旨は論理的であり、科学的です。
この、天変地異の起こるメカニズムを
空想地球科学として楽しむ視点こそ、
本書の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本書の味わいどころ③
次に起こりうる災害に備える

大切なのは、
読み終えたあとの私たちの
心構えということになるのでしょう。
地球規模、そして宇宙規模の視点から
天変地異のしくみについて
十分に理解でき、それによって
これから起こりうる災害に対する
見方・考え方が確実に変容します。

さらに本書は、
悲観的な考え方に陥らないような
配慮もなされています。
「地球温暖化」については、
「スノーボールアース
(極度に寒冷化した地球)を
回避するという
ポジティブな一面もあります」、
「パンディック」については、
「ウイルスこそが人類の進化に
寄与しているという
考え方もあるようです」と、
見方・考え方の
転換をうながしています。
「おわりに」に書かれた
筆者の言葉が素敵です。
「天変地異のサイクルを知り、
 そうした視点をもって
 世界を見ることは、
 日々の生活には役立たなくとも、
 少しだけ楽しく
 生きられるようになるのではと
 思っているのですが、
 いかがでしょうか」

災害の多い国・日本の、
災害の多い現代に生きる私たちにとって
必読書ともいえる一冊です。
ぜひご賞味ください。

(2025.10.22)

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