「はずれ者が進化をつくる」(稲垣栄洋)

生物学の知見から導かれた「生き方指南」

「はずれ者が進化をつくる」
(稲垣栄洋)ちくまプリマー新書

生物の進化は
「多様性の進化」でもあるのです。
こうしてつくられてきた
「多様性」には、いったい
どんな意味があるのでしょうか。
私たちに与えられた「個性」には、
いったいどんな秘密が
隠されているのでしょうか。
そんな個性の秘密を…。

著者の稲垣栄洋氏は、
雑草生態学を研究している農学博士。
「生物の進化」について
詳しく知ろうと思って読み進めると、
肩透かしを食らうはずです。
本書は自然科学の
新書本ではありません。
人の生き方の指南書といえるような
内容なのです。
もちろん、生物学の知見から導かれた
「生き方指南」であり、
目から鱗が落ちるような記述が
盛りだくさんです。

〔本書の構成〕
はじめに
1時間目 「個性」とは何か?
2時間目 「ふつう」とは何か?
3時間目 「区別」とは何か?
4時間目 「多様性」とは何か?
5時間目 「らしさ」とは何か?
6時間目 「勝つ」とは何か?
7時間目 「強さ」とは何か?
8時間目 「大切なもの」は何か?
9時間目 「生きる」とは何か?
おわりに

本書の味わいどころ①
本来「ふつう」も「境界」もないという見方

よく「人間には
ふつうってないんだよ」だとか
「人と人を区別する必要はない」などと
教え諭されることが多いのですが、
なぜ人はそうした
「ふつう」という基準をつくったり、
「区別」してとらえようとするのか、
人間の思考メカニズムから
解説しています。
筆者は、
複雑で多様な世界を理解するために、
人間の脳は数値化して序列をつけたり、
境界を設けたりする、と説きます。
その上で、「ふつう」も「境界」も
実態として存在するようなものではなく
人間の脳が生み出した幻影であると
解説しているのです。
そうか、もともと人の在り方に
「ふつう」という基準も、
区別するための「境界」もないんだ!
そう考えると生き方が楽になること
請け合いです。
この、生物の世界では
「ふつう」も「境界」も存在しないという
見方ができるようになることこそ、
本書の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

本書の味わいどころ②
ニッチな環境で一位を目指すという思考

「ナンバー1にならなくてもいい。
もともと特別なオンリー1」という
歌がかつて大流行しました。
どの分野であれナンバー1を目指すのは
確かに困難なのですが、
オンリー1だって
十分に難しいのではないか?
ずっとそう思っていました。
本書はその疑問に対しても
明確な解答を与えてくれます。

基本的に生物種は「ナンバー1」しか
生き残られないのですが、
現在この世に存在している
すべての生物種は
何らかの形で「ナンバー1」に
なっているとのことです。
なぜ「ナンバー1」だらけなのか?
それはそれぞれの生物種が
「棲み分け」を行いながら、
自らの最も適した環境や条件の中で
「ナンバー1」に
なっているからなのだそうです。
そしてそれこそが「オンリー1」なのです。
つまり狭い範囲・条件
(これを「ニッチ」という)の中での
「ナンバー1」こそが「オンリー1」であり、
両者はある意味、
同一のものといえます。
私たちは自分にとって
最適の環境や条件を探し、
そこで最小限の努力で
「ナンバー1」を目指せばいいのです。
そう考えると生きることが
もっと面白くなるはずです。
この、ニッチな環境で
一位を目指すという思考に
気づくことこそ、本書の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本書の味わいどころ③
敗者が進化の道を切りひらくという視点

生物界において進化を果たした種は、
実は生存競争に
敗れ去ったなかまなのです。
ヒトは「万物の霊長
(最も優れたもの)」であると
いわれますが、
負け続けた生物種の子孫なのです。
筆者はこうした事実からも、
生き方のヒントを提示します。
「勝てそうか負けそうかを見極めて、
 負けると判断したら、
 無理せず負ける。
 そんな小さなチャレンジと
 小さな負けを繰り返すことが
 大切なのかも知れません」

その繰り返しが、
「オンリー1」になれる「ニッチ」を
探し出す近道になるのでしょう。
この、敗者が進化の道を切り開くという
視点を得ることこそ、本書の第三の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

今、全国各地の中学校に、生きづらさを
感じている子どもたちがいます。
その子どもたちの心を救うことができる
一冊であると感じます。
いや、大人が読んでも
十分に心を癒やすことができます。
ぜひご賞味ください。

(2025.10.27)

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