「光が照らす未来」(石井幹子)

人の生き方の強烈なモデルが示されている

「光が照らす未来」(石井幹子)
 岩波ジュニア新書

明かりが灯って、人が
住んでいることがわかったり、
時にはライトアップされた
建物があって、街の個性を
つくっていたりします。
そう、夜になって
浮かび上がってくる夜景を
デザインすることは、
「照明デザイナー」の
仕事なのです…。

出版が岩波ジュニア新書
サブタイトルが
「照明デザインの仕事」ですから、
おそらく「照明デザイナーになるには」
どうすればいいのか書かれてある、
中高生に向けた職業案内的なものかと
思っていました。
そのような
浅いものではありませんでした。
人の生き方について考えさせられる、
深い内容の一冊です。

〔本書の構成〕
はじめに
序 章 照明デザインの仕事とは?
第1章 将来を考え続けた学生時代
第2章 やりたいことを仕事にする
第3章 明かりを求めて世界に旅立つ
第4章 照明デザイナーとして生きる
第5章 日本の夜の街に光を!
終 章 明かりの未来とあなたの未来
あとがき

本書の味わいどころ①
自分の進路の切り拓き方

本書の約半分、第1章から第3章まで、
筆者が職業人として自立するまでの
奮闘記となっています。
筆者は1938年生まれ、
まだまだ女性の社会進出が
進んでいない時代です。
大学進学も就職も、
現代とは比べものにならないほど
困難だったことが、
ひしひしと伝わってきます。
そして就職しただけでなく、
果敢にも海外へと飛び出し、
照明デザイナーとしての
キャリアを積み重ねているのです。
この、幾多の困難を乗り越えて
自らの進路を切り拓いていく、
筆者の強い推進力こそ、
本書の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

まだまだ地方では、
社会進出しようと考えない(あるいは
そうした具体的なイメージを持てない)
女子中高生が数多く存在します。
身近に手本となる人材が少ないため
仕方がないのですが、残念な限りです。
ぜひ本書に接して、
女性としての生き方を
考えさせたいものです。

本書の味わいどころ②
新しい職業の生み出し方

そして第4章では、
1968年以降の、帰国後の筆者の
奮戦ぶりが描かれています。
照明デザイナーという職業が
まだ日本に定着していない時期に、
それが仕事として成り立つように、
日本各地、そして世界を飛び回り、
実績を創り上げているのです。
すでに存在する仕事で
ナンバー1になるのも
難しいことでしょうが、
新しい分野を開拓して
そこでトップを目指すのは
それ以上に困難が伴うということが
よくわかります。
だからこそ大きな達成感が
得られるのでしょう。
この、未開の領域において
新しい職業を開拓していこうとする、
筆者の大きな創造力こそ、本書の
第二の味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本書の味わいどころ③
新しい価値観のつくり方

さらに第5章では、
日本においてまったく存在しなかった
「照明デザイン」という概念を
定着させるまでの、
筆者の挑戦が綴られています。
「節電」が美徳とされている日本において
夜間のライトアップが
電力の浪費などではなく、
大きな価値を持ったものとして
認識されるよう、
自ら積極的にPR活動や実証実験を
行っているのです。
企画書や視覚的プレゼンで
終わるのではなく、
実際のライトアップを提示して
納得させる。
そうした攻めの姿勢がなければ
人間の価値観をひっくり返すことなど
できないということでしょう。
この、新しい価値観を提示し、
積極果敢に需要を生み出している、
筆者の大胆な行動力こそ、
本書の第三の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

単なるハウツー本でもなければ
「○○になるには」的な
進路解説本でもありません。
人の生き方の強烈なモデルが
本書には示されているのです。
これから社会に羽ばたこうとしている
中学生高校生のみなさん、
特に女の子に強く薦めたい一冊です。
もちろん大人のあなたも
ぜひご賞味ください。

(2025.11.3)

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