「3・11後を生きるきみたちへ」(たくきよしみつ)

「正解を知るため」ではなく、「一緒に悩むため」の本として

「3・11後を生きるきみたちへ」
(たくきよしみつ)岩波ジュニア新書

除染とか復興とか
新エネルギーとか、
今さかんに話題にされている
言葉に対して、
みなさんは漠然とながらも
自分なりのイメージを
もっていることでしょう。
それを一度リセットしてから、
問題に向きあってほしいのです。
なぜなら…。

東日本大震災、
そして福島第一原発事故から
今年で15年が経過しました。
すでに現在の中学生たちは
震災・原発事故を
知らない世代となってしまいました。
中学生に「3.11」を伝えるとすれば
この本が最適と考えます。
2026年の中学生に、
この本はどのように響くのか?
それが本書の味わいどころと考えます。
岩波ジュニア新書の一冊です。

〔本書の構成〕
はじめに
第1章 あの日、何がおきたのか
第2章 日本は放射能汚染国家になった
第3章 壊されたコミュニティ
第4章 原子力の正体
第5章 放射能よりも怖いもの
第6章 エネルギー問題の嘘と真実
第7章 3・11後の日本を生きる
あとがき

本書の味わいどころ①
「歴史」が現在進行形に変わる衝撃

何人かの子どもたちに聞いてみました。
やはり現在の中学生にとって
「3.11」は、生まれる前、
もしくは物心がつく前の出来事であり、
教科書の中の「歴史」に近い感覚でした。
しかし、この本は子どもたちに
次のような気づきを与えるはずです。

一つは、東日本大震災および
福島第一原発事故は
まだ「終わっていない」という実感です。
本書に報告されている
事故の影響や除染、
避難生活のリアリティは、
原発事故が「過去の事件」ではなく、
2026年現在もなお続く
「現在進行形の課題」であることを
突きつけているのです。

もう一つは、
情報の正しい受け止め方です。
本書には、
当時の政府やメディアが発した情報の
「うそ」が暴かれています。
現地で生活し、現地で自己を体験し、
現地からの避難を余儀なくされ、
さらに調査のために再び現地に入った
著者でなければ書けなかった真実が
ここにはあります。
施政者や電力会社の欺瞞を突く
著者の視点は、
情報過多な現代を生きる中学生にとって
「何を信じるべきか」という
メディアリテラシーの重要性を
教えてくれるはずです。

本書の味わいどころ②
不便さやリスクを受け入れる覚悟

スマホ一つで何でも解決できる
便利な世の中に
慣れてしまった世代にとって、
震災がもたらした
「日常の崩壊」の描写は、
生存への本能的な問いを
投げかけるのではないでしょうか。
スイッチを押せば電気がつく裏側に、
どのような「リスク」が潜んでいて、
どのような「犠牲」が払われているのか。
原子力発電は
「安価なエネルギー」とされているが、
それは国策として
巨額の税金が投入されていることや、
核廃棄物の後始末が
計算に入れられていないことから生じる
「見せかけの安さ」であることを
著者は具体的に説明しています。
その一方で、
風力発電や太陽光発電といった、
いわゆる
「再生可能エネルギー」についても
その問題点について
鋭く切り込んでいるのです。

本書を読むことで、
子どもたちの節電やエネルギー問題への
意識が高まり、単なる「エコ」を超えた、
切実なものへと深化していく
可能性があるのです。

本書の味わいどころ③
自立した思考への転換をうながす

そうしたエネルギー問題について、
著者・たくき氏は、
安易な答えを提示してはいません。
読み手である中学生高校生に対し、
「自分で考え、判断すること」を
厳しく、かつ温かく求めているのです。
著者の読み手への呼びかけは、決して
「上から目線」にはなっていません。
表題の「きみたちへ」という呼びかけが
表すとおり、著者は中学生高校生を
子どもとしてではなく、
これからの社会を担う
「一人の人間」として
対等に扱っています。
その真剣な筆致と
その背後から感じられる
暖かなまなざしは、
背伸びをしようとしている
年頃の世代にとって、
自立心を刺激するものとなるはずです。
また、「放射能」という
目に見えない恐怖に対し、
感情論だけで流されず、かといって
データだけで割り切らない姿勢は、
学校の授業では得られない
「生きた感覚」として映るはずです。

現代の中学生が
本書を読んだ直後に抱くのは、
「今まで聞いていた話と違う」
「こんなに複雑なことだったのか」という
重い違和感かもしれません。
しかし、その違和感こそが、
著者がもっとも伝えようとしている
「自分の頭で考える」ための
種火になると思うのです。
「過去を知らない」ことは、
決して欠点ではありません。
先入観なく著者の言葉を咀嚼できる、
若い世代だけの強みでもあるのです。

「正解を知るため」ではなく、
「一緒に悩むため」の本として、
子どもたちに紹介するべき
一冊なのでしょう。
もちろん大人のあなたも
ぜひご賞味ください。

(2026.3.16)

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