「ウニはすごい バッタもすごい」(本川達雄)

すごい!「実はざんねんではなかった生き物事典」

「ウニはすごい バッタもすごい」
(本川達雄)中公新書

体のつくりの異なる動物たちは、
生きていくそれぞれの場面で、
どうふるまえばいいのかも、
何を求めるのがいいのかも
異なっているだろう。
求めるものが違うとは、
価値ありとするものが
動物により違うということ。
価値観が違う…。

新書本は一度読めば
基本的に再読はしないのですが、
本書は例外です。
何度も読みたくなる
自然科学分野の新書本です。
理由はただ一言。
「面白いから」。
自然科学の新書本は
難しいものが多いのですが、
これだけ面白く語ってくれる本は
なかなかありません。
発表する本の多くが
ベストセラーとなっている、
歌う生物学者・本川達雄氏の
「ウニはすごい バッタもすごい」です。

〔本書の構成〕
第1章 サンゴ礁と共生の世界
    ―刺胞動物門
第2章 昆虫大成功の秘密―節足動物門
 1 キチン質の外骨格
 2 大きな運動能力
 3 気管
 4 体のサイズ
 5 被子植物との共進化
 6 脱皮
第3章 貝はなぜラセンなのか
    ―軟体動物門
第4章 ヒトデはなぜ星形か
    ―棘皮動物門Ⅰ
第5章 ナマコ天国―棘皮動物門Ⅱ
 1 管足
 2 皮膚内骨片
 3 キャッチ結合組織
 4 低エネルギー消費
第6章 ホヤと群体生活―脊索動物門
第7章 四肢動物と陸上の生活
    ―脊椎動物亜門
 1 陸上の生活
 2 姿勢を保ち、歩く
 3 食物を得る、消化する
おわりに
巻末楽譜

本書の味わいどころ①
体のデザインという新しい切り口

「昆虫のクチクラ」
「アサリのキャッチ筋」など、
身近な生物の
「知らなかった体のしくみ」が
次々に登場し、ワクワクさせられます。
しかし本書は単なる
「生き物の不思議紹介」に
留まってはいません。
著者が長年提唱してきた
「サイズ」と「デザイン」の
生物学(アロメトリー)という独自の
視点が貫かれている点にあります。

ヒトデの星形やサザエのラセン形など、
生物の形は単なる偶然ではなく、
環境に適応した
結果であるということが、
重力や表面積、粘性といった
物理的数学的な検証結果をもとに
紹介されています。
論理的な説得力を持って語られる
「デザイン論」は、
まるでパズルを読み解くような
爽快感があります。
生物学は
暗記科目などではなかったのです。

本書の味わいどころ②
「進化」に対する正しい視点の提示

進化とは、より速く、より強く、
より賢くなること、そして
ヒトこそが進化の頂点に立っている。
そう私たちは錯覚してしまいがちです。
ところが著者はあえて
「棘皮動物」(ウニやヒトデ)のような、
一見すると不器用で非効率に見える
体のデザインに注目しています。

「キャッチ結合組織」
(エネルギーを使わずに
体を固めるしくみ)などの
解説をとおして提示される
「動かないことの合理性」は、
まさに「目から鱗」の視点です。
まるで進化論の盲点を突いたような
斬新さが感じられます。

進化し損ねたのでもなく、
進化に乗り遅れたのでもなく、
他の生物との競合を避け、
ニッチな環境に適応した結果なのです。
したがって、
現在地球上に生息できている生物は、
ウニであれバッタであれ
ヒトデであれナマコであれ、
すべて進化の頂点に立っているのだと
いうことがよくわかります。

かつて「ざんねんな生き物事典」が
ベストセラーとなりましたが、
本書は一見
「ざんねん」に見える生物の体が
実はきわめて優れたものであることを
解き明かした素敵な一冊なのです。

本書の味わいどころ③
好奇心旺盛な少年目線での語り口

東京工業大学での講義が
ベースとなっているため、
内容は本格的です。
それでいながら語り口は親しみやすく、
生物学の基礎知識がなくても
十分に理解できる内容となっています。
中学校で理科を教えている
私にとっても、初読の際は
初めて知ることばかりで
驚きの連続でした。
いや、再読するたびに理解が深まり、
一層興奮させられます。

専門用語の使用や
難解な数理モデルを排除し、
平易な表現を
徹底しているだけではありません。
自身の研究において感じた
「驚き」や「喜び」を、そのまま
伝えようとする姿勢にあるのです。
あたかも好奇心旺盛な少年が、
発見した感動を
そのまま語っているような雰囲気が
溢れ出ているのです。
こうしたエネルギー溢れる筆致こそが、
もう一度読みたいという欲求を
引き起こしてくれるのでしょう。

生物学の新書本が「遺伝子」や「分子」に
偏りがちな現代において、
あえて「個体の形・デザイン」や「力学」に
光を当てた本書は、
マクロ生物学の重要性を再認識させる
一冊としても重要です。
ぜひご賞味あれ。

今日のまとめ

(2026.4.8)

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