「新版 行政ってなんだろう」(新藤宗幸)

実社会と接続した「生きた行政」を伝える

「新版 行政ってなんだろう」
(新藤宗幸)岩波ジュニア新書

私たちの生きる社会は、
自分で自分の生活を支えることを
基本にしているのですが、
それだけでは、
生活が成り立たないのも
事実です。
少し身の回りを
みまわしただけでも、
行政といわれるものが供給する、
さまざまなサービスに…。

岩波ジュニア新書の一冊です。
2008年刊行であり、
やや鮮度が落ちてはいるのですが、
書かれてあることは2026年の現代でも
そのまま通用します。
「行政」という言葉は知っていても、
その実態が何であるか、
自分たちの生活と
どのように関わっているのか、
「行政」と「政治」はどう違うのか、
そうした普段感じない「疑問」に、
丁寧に答えてくれる一冊です。

〔本書の構成〕
プロローグ 行政をみる眼
第Ⅰ章 行政国家の広がりとその変化
第Ⅱ章 日本の行政制度の変遷と現状
第Ⅲ章 行政の働きが変えた
     市民のくらし
エピローグ
 市民のコントロールによる行政
あとがき

本書の味わいどころ①
「生活者の視点」の徹底

専門書としての「行政学」は、
法律や組織構造の解説に終始しがちで、
中学生には非常に
退屈に感じられるものと思われます
(私はじっくり読んだことがないため
推測にすぎませんが)。
しかし本書は中高生の読み手も
十分について行けるような
工夫がなされています。

20頁にわたる「プロローグ」では、
水道・道路・ゴミ収集・警察・
学校運営など、私たちの日常が
いかに行政サービスによって
成り立っているかを
丁寧に説明してあります。
また、本論での各章では、
理論に偏ることなく、
実際の公共事業や福祉、教育の現場で
何が起きているか、具体例を挙げて
わかりやすく示しているのです。
私たちの「朝起きてから寝るまで」を
念頭に、「行政」がいかに
私たちの生活に結び付いているか
実感できるように
解説がなされているのです。
単なる知識の提供にとどまらない、
実社会と接続した
「生きた行政」を伝えようとする
著者の姿勢が伝わってきます。

本書の味わいどころ②
批判的思考からの論点

本書は単なる制度の解説書に
とどまりません。
著者の新藤宗幸氏は、
日本の行政構造に対して一貫して
「市民によるコントロール(監視)」の
重要性を説いてきた学者です。
著者の「批判的思考」からの問題提起が
随所に盛り込まれているのです。

一つは官僚主導への鋭い問いかけです。
行政が肥大化し、
政治や市民の手を離れて
独走してしまうリスクについて、
中高生の読み手にも理解できる言葉で
警告を発しています。
どこか遠くにある「行政」が、
実は自分と深く関わっていて、
その問題的構造は、とりもなおさず
自分自身に不利益として
襲いかかってくることが
よくわかるように
構成されているのです。

もう一つは、行政を
「完成されたもの」としてではなく、
これからも
「変化・推移していくもの」として
扱っている点です。
行政改革の推移(省庁再編や
地方分権など)を追うことで、
行政が時代に合わせて試行錯誤している
未完成なシステムであることを
示唆しています。
そしてそのシステムを
よりよいものにしていくためには、
市民が積極的に行政を監視し、
声を上げていくことが
大切であることに気づけるよう
描かれてあるのです。

本書の味わいどころ③
「入門編」かつ「本格派」

本書は1998年の初版から
2008年の新版への改訂時、
2000年代の省庁再編や地方分権改革を
盛り込みつつ、
論理の一貫性を保ったことで、
「長く使える仕様」を獲得しています。
「行政」という広大な分野を総括的に、
しかもあまり深掘りせずに
入門的に扱った「行政学入門書」として
中高生から大人まで、
幅広くお薦めできる
良書となっています。

その一方で、内容は決して
「お子様ランチ」的ではなく、
岩波ジュニア新書としては
「本格派」の風格を持っています。
ある意味、大学の一般教養としての
「行政学」の教科書レベルでもあります。

本書はそうした「入門」と「本格」の
絶妙なバランスを保っており、
数ある岩波ジュニア新書の中でも、
本書は中高生が「背伸びして読む
価値のある一冊」であるといっていいと
思います。
専門用語を避けつつも、重要な概念
(行政国家、情報公開など)については
安易に妥協せず解説しており、
高校入試や小論文対策の副読本としても
活用が期待されます。

さて、本書を
十数年ぶりに再読しました。
購入当初は
よく理解できなかった部分が、
時間をおいたら
よくわかるようになりました。
本書に書かれてある
「当時の行政改革」の意味や意義が、
時間の経過とともに私にも
よく理解できるようになったからだと
感じます。

こうした本が、常に
入手できるのであればいいのですが、
「行政学」全般についての
「入門」的な本となると、
この一冊を置いて他に見当たりません。
絶版となっているのは
残念なことですが、
しばらくは社会から必要とされる
一冊であり続けるはずです。

(2026.5.27)

〔「行政学」についての本〕
本書「新版 行政ってなんだろう」を
踏まえた上で、
「行政学」について体系的に学ぶための
本をリストアップしてみました。

⑴入門編
 (行政の「全体像」をつかむ段階)
「政治のしくみがわかる本」(山口二郎)
「地方自治のしくみがわかる本」
 (村林守)
「地方自治講義」(曽我謙悟)

⑵中級編
「行政学」(新藤宗幸)
「行政学」(伊藤修一郎)
「行政学(新版)」(真渕勝)
「政治主導 官僚制を問いなおす」
 (新藤宗幸)

⑶専門編
「行政学 第3版補訂版」(西尾勝)
「行政法(第7版)」(櫻井敬子・橋本博之)

〔関連記事:岩波ジュニア新書〕

「3・11後を生きるきみたちへ」
「古代エジプト入門」
「戦争を止めたい」

〔岩波ジュニア新書はいかが〕

Frauke RietherによるPixabayからの画像

【今日のさらにお薦め3作品】

「かもめのジョナサン 完成版」
「境遇」
「ウニはすごい バッタもすごい」

【こんな本はいかがですか】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA