「飛ぶ男」「さまざまな父」(安部公房)
安部の思考の行く先を想像する愉しみ 「飛ぶ男」「さまざまな父」(安部公房)(「飛ぶ男」)新潮文庫 ある夏の朝、たぶん四時五分ごろ、氷雨本町二丁目四番地の上空を人間そっくりの物体が南西方向に滑走していった。月明かりを背にし...
安部の思考の行く先を想像する愉しみ 「飛ぶ男」「さまざまな父」(安部公房)(「飛ぶ男」)新潮文庫 ある夏の朝、たぶん四時五分ごろ、氷雨本町二丁目四番地の上空を人間そっくりの物体が南西方向に滑走していった。月明かりを背にし...
政治家の、選挙区民に対する釈明のような 「老村長の死」(安部公房)(「題未定 安部公房初期短編集」) 新潮文庫(「安部公房全集001」)新潮社 「諸君は私を罪人だと云う。すかし一体、私が何をしたでありましょうか。私は村長...
時代に対する安部の冷めた視線 「手」(安部公房)(「水中都市・デンドロカカリヤ」) 新潮文庫 他の道はなかった。おれは「手」に向って真っすぐ走り、いくらかの肉と血をけずり取って、そのまま通り抜け、街路樹の幹につきささって...
罪悪の意識・存在の証明・故郷の喪失 「題未定(霊媒の話より)」(安部公房)(「題未定 安部公房初期短編集」) 新潮文庫(「安部公房全集001」)新潮社 一人の小ちゃな年の頃十四か五に見えるきゃしゃな人好きのする孤児がどこ...
死の先には、さらに深い絶望が用意されている 「時の崖」(安部公房)(「無関係な死・時の崖」)新潮文庫 ……負けちゃいられねえよなあ……勝負だもんなあ……負けるために、勝負してるわけじゃねえんだからなあ……あ、これ、昨日の...
「分からない」そして「何かに変身している」こと 「壁」(安部公房)新潮文庫 その瞬間、ぼくはもう一人のぼくの正態を見破ってしまったのです。それはぼくの名刺でした。そう思ってみれば、それはどう見ても見まがうことのない名刺で...
優しさを感じさせる文体や設定は、おそらくは罠 「白い蛾」(安部公房)(「題未定 安部公房初期短編集」) 新潮文庫(「安部公房全集001」)新潮社 船旅をする「私」は、船長に「白蛾丸」という珍しい船の名前の由来を尋ねる。船...
では、本当の「ぼく」はいったいどれ? 「バベルの塔の狸」(安部公房)(「壁」)新潮文庫 詩人である「ぼく」は、自らの空想を「とらぬ狸の皮」と名付けた手帳に書き込んでいた。ある日、P公園で出くわした狸のような奇妙な獣は、「...
いや、大人版「不思議の国のアリス」です。 「S・カルマ氏の犯罪」(安部公房)(「壁」)新潮文庫 その瞬間、ぼくはもう一人のぼくの正態を見破ってしまったのです。それはぼくの名刺でした。そう思ってみれば、それはどう見ても見ま...
新潮文庫「飢餓同盟」における二つのヴァージョン 「飢餓同盟(1970年版)」(安部公房) 新潮文庫 この町自体が、まさに一つの巨大な病棟だ。どうやら精神科の医者の出るまくなどではなさそうである。傷だらけになった飢餓同盟に...