現代日本の「組織」そのものを変える必要がある
「太平洋戦争 日本の敗因4」
(NHK取材班)角川ソフィア文庫

「インパールを
三週間で攻め落とす」
―室田口司令官のこの大号令で
昭和一九年三月にはじまった
同作戦には、
前記三個師団
一〇万人の将兵が参加し、
ビルマ北部の三方からインドの
インパールへと向かった。
だが、待っていたのは…。
先日来取り上げている
「太平洋戦争 日本の敗因」シリーズの
第4巻です。この巻では、
「無謀な作戦」の
代名詞ともなってしまった
「インパール作戦」を取り上げています。
以前、丸山静雄による
「インパール作戦従軍記」(岩波新書)を
読みました。
そちらが一記者として従軍した記憶と
その後の文献調査等から
成り立っているのに対し、
本書はNHK取材班による、
戦後50年の節目を迎えての
大規模な取材活動の成果を
まとめたものであり、
読み応えがありました。
〔本書の内容〕
まえがき
プロローグ
1 無謀の始まり
2 作戦推進
3 連合軍の先方
4 糧なく弾なく
5 無責任がもたらしたもの
参考文献 あとがき
本書がクローズアップしているのは、
この無謀な作戦がどのように立案され、
どのように承認され、
どのように実行され、
そして頓挫したのか、
つまり当時の日本の軍部で
どのような意志決定が
成されていたのかという側面です。
一通り読み終えて気づくのは、
「誰も何も決定していない」という、
日本人特有の意志決定過程です。
「1 無謀の始まり」「2 作戦推進」では、
作戦の決定までの
経緯が綴られています。
注目すべき点がいくつかありました。
一つは、現実的に計算すると、
どうしても兵站が追いつかず、
作戦は不可能であることが
わかっていながら、それが
大勢を占めるには至らなかったこと、
牟田口司令官のような
一部の権力ある人間の
声高な一声によって
空気が醸成されたこと、
無謀な作戦であることを意見具申した
参謀長が更迭されることにより、
無言の圧力が支配的になったこと、
現実的な「情報分析」よりも
高級将校の「情」が優先されたこと、
そうした結果、
最高の意志決定機関である
大本営の下した決断は、
「インパール作戦の準備をせよ」という、
きわめて玉虫色の命令だったわけです。
「準備せよ」という指示の中には
「実行せよ」は含まれていません。
しかしその命令を受ければ、
「実行しないための準備」が
あり得ない以上、
「実行しない選択肢」は
あり得ないのです。
「自分たちは命令していない、
現場が勝手にやっただけだ」。
現代でもよく聞くフレーズです。
そこに「責任」は存在していません。
「3 連合国の戦法」では、
逆に英国軍の組織としての
風通しのよさが説明されています。
兵站を軽視(もしくは無視)する
日本軍と異なり、
兵站を戦略の一翼として考え、
前線と兵站部の連絡連携を滑らかにし、
意思疎通を欠かしていないのです。
さらには亜米利加軍の補給部隊との
連携もなされ、
横のつながりができているのです。
同じ軍隊にありながら、
陸軍と海軍で
全く意思疎通できていなかった
「縦割文化」の日本とは大違いです。
「4 糧なく弾なく」では、
その結果としての、
最前線の将兵たちの地獄のような惨状が
綴られていきます。
その中にあっての
牟田口司令官の訓示が印象的です。
「ビルマにあって、周囲の山々は
これだけ青々としている。
日本人はもともと
草食動物なのである。
これだけ青い山を周囲に抱えながら、
食料に困るなどというのは、
ありえないことだ」。
一方のイギリス軍の、
食料の補給はもとより、
負傷者を速やかに救出して
搬送・治療するシステムとの
対比がなされ、
当時の日本軍指揮官の人命軽視の姿勢が
浮き彫りにされています。
「5 無責任がもたらしたもの」では、
作戦頓挫の経緯が描かれています。
悲惨な前線にあって、
部下の生命を考え、
独断で撤退を決意した将校は
責任をとらされて更迭された一方、
無謀な作戦を支持した将校の多くは
何ら責任をとらされることも
とることもなく、
むしろ昇進したことが記されています。
「太平洋戦争 日本の敗因」の
第1巻から第3巻までの記事にも
記したことであり、本書の至る所に
述べられていることなのですが、
「これは果たして戦時中の
日本特有のことなのだろうか」という
疑念が拭えません。
今の日本の組織(官民問わず)も、
この状態と大差ないのではないかと
思えるのです。
明確な意志決定を避けて
雰囲気で伝えようとする組織、
「和を以て貴しとす」の美名のもとに
同調圧力を生み出すシステム、
異を唱えることを
抑え込もうとする風潮、
トップほど責任を負わずに
末端に責任を押しつける組織体制、
「空気」が支配する風通しの悪い関係、
すべて戦時中のみならず、
本書刊行から30年たった
令和の現代でも何ら変わらず
受け継がれていることです。
やはり現代だからこそ、
本書は読まれるべきです。
日本という国のどのような欠陥が
戦争を引き起こしたのか、
冷静に客観視することが
大切だと考えます。
「戦争反対」を情緒面から訴えるだけでは
全く効果はないでしょう。
現代の日本の「組織」そのものを
変えていく必要があるはずです。
〔「太平洋戦争 日本の敗因」全6巻〕
1 日米開戦 勝算なし
2 ガダルカナル 学ばざる軍隊
3 電子兵器「カミカゼ」を制す
4 責任なき戦場 インパール
5 レイテに沈んだ大東亜共栄圏
6 外交なき戦争の終末
かつてこの本を
すべて所有していたのですが、
処分してしまいました。
先日、丸山静雄著
「インパール作戦従軍記」を読んで
ふと思い出し、
全6冊を中古で購入し直し、
再読している最中です。
手放したとしても、
再入手は容易になりました。
本は今や、人類の共有財産です。
〔丸山静雄「インパール作戦従軍記」〕
〔「太平洋戦争 日本の敗因」〕
(2023.7.31)

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