
歌う科学者が教える「生命の不思議」
「細胞の不思議」(永田和宏)講談社
私たちの身体を作っている
細胞の数が
60兆個であることは、多くの人が
知っていると思います。
2014年度の日本の国家予算が
96兆円といいますから、
それに匹敵する数です。
誰にもそんな途方もない数が
実感できるとは思えません…。
中学校2年生で学習する「細胞」。
授業では顕微鏡を使って
「オオカナダモの葉の細胞」
「タマネギの鱗片葉の細胞」
「人のほおの内側の粘膜の細胞」などを
観察します。
でもそもそも「細胞」とは何なのか?
わずかな授業時間では
深入りすることはできません。
となると、あとは
本を紹介するにとどまるのです。
本書は中学校2年生にお薦めしたい
「細胞」の参考図書となります。
〔本書の構成〕
1 身体の中の細胞の数
2 どのくらいの種類の細胞があるの?
3 いろいろな顔を持った細胞
4 細胞の中で生きる別の細胞
5 生命の3つの基本要素
6 細胞は細胞から
7 生命は自然に発生したのか
8 生命のもとになる分子は
どこから来たのか?
9 伸縮自在な膜が
生命を外界から区分けする
10 細胞の中の働き手たち
11 タンパク質って
どうして作られる?
12 細胞内の輸送インフラ
13 一は他のため、他は一のため
14 細胞にも寿命がある
15 生命の始まり
16 幹細胞と再生医療
あとがき
本書の味わいどころ①
「暗記」から「生きているドラマ」へ
とかく生物分野の学習は、
どうしても名称や機能の暗記に
偏りがちです(そうならないような
授業展開を工夫しているのですが)。
本書は、細胞の中で
タンパク質がどのようにつくられ、
そしてそれがどのように運ばれ、
さらに最終的には
どのようにして壊されるかという、
動的なプロセスを強調しています。
細胞の顕微鏡写真などは
一切掲載されていないのですが、
著者の的を射た説明は、
動きを伴った動画が
読み手の脳内で展開していくかのように
リアルなのです。
「教科書で止まっていた細胞の図が、
まるで巨大な工場ラインのように
動き出す面白さがある」といっても
過言ではありません。
本書の味わいどころ②
ミクロな視点でのぞく「生」と「死」
中学生にとって「生」と「死」は、
いろいろな角度から考えるべき
テーマです。
個体としての「生」と「死」ではなく、
本書を通して
細胞というミクロな視点での
「生」と「死」をとらえることが
できるのです。
細胞は細胞から生み出されること、
一つの細胞が細胞分裂し、
いろいろな器官での細胞へと
個性化していくこと、
そして最後には「死」が訪れ、
それはあらかじめ
プログラムされたものであること
(アポトーシス)、
さらには自分たちの体を
形づくるために、あえて
死んでいく細胞があるということ。
そうした細胞レベルでの「生」と「死」は、
多感な中学生にとって、
多くの気づきを
もたらしてくれるはずです。
生物学的な事実から、
命の尊さを自然に考えることができる。
それが本書の特徴なのです。
本書の味わいどころ③
科学者の「視点」を擬似体験できる
筆者の視点は、
「なぜ?」「どうして?」という
問いを発する姿勢で貫かれています。
この「問いを立てる」思考プロセスこそ、
現代の学習で最も子どもたちに
身につけさせたいことなのです。
特に第6章「細胞は細胞から」
第7章「生命は自然に発生したのか」での、
過去の科学者たちの議論の過程は、
そうした思考プロセスの大切さを
子どもたちに訴えています。
「仮説が出され、それが別の考え方、
あるいは実験によって
否定されます。
否定した側の意見や結論も、
またそれに対する反証実験によって
覆されます。
科学的真理というものは、
そのような念には念を入れた
最新の検証に耐えたものだけが、
生き残っていくのです」。
こうした科学者の「視点」を
疑似体験することは、
探究学習の導入として最適です。
単なる知識の習得ではなく、
科学者が何に感動し、
どう謎を解き明かしていくかの
情熱が伝わってくることこそが
大切なのだと感じます。
さて、著者の永田和宏氏は、
京都大学理学部物理学科卒業の
理学博士。
その一方で、歌人としても高名です。
本書は科学的な内容を扱いながら、
その文章は優雅で洗練された、
読みやすいものとなっているのも
特徴です。
つまり理系・文系の枠を超えた
一冊なのです。
歌う科学者が教える「生命の不思議」。
科学アレルギーがある生徒でも、
エッセイを読むような感覚で
生命の神秘に触れられること
間違いなしです。
中学校2年生に、
そして学び直しを考えている
大人のあなたにお薦めします。
(2026.3.18)
〔永田和宏氏の本はいかがですか〕
岩波新書という高尚な新書本に、
理系と文系の二つの分野で著作を
書き表しているのはまれな例です。
〔関連記事:生物学に関する本〕
「細胞のはたらきがわかる本」
(伊藤明夫)
「DNAがわかる本」(中内光昭)
「遺伝子とは何か?」(中屋敷均)
「細胞発見物語」(山科正平)
「世界一やさしい!細胞図鑑」


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