
佐七、醜態をさらす。お粂、手柄を挙げる。
「佐七の青春」(横溝正史)
(「完本 人形佐七捕物帳二」)
春陽堂書店
夫婦喧嘩して
家を飛び出した佐七は、
美女・お絹に声をかけられ、
つい一杯始めてしまう。
船の中で酔い潰れていた佐七は、
探していた辰と豆六に
見つけられる。
事件が起きたのだ。
佐七はその懐から
十手がなくなっているのに
気づき…。
横溝正史の人形佐七捕物帳、
第二十七話です。
佐七とお粂の夫婦げんかから始まった
本作品。
声をかけられたお絹に、
佐七は心当たりもなく、
でも「いい女」なので
ついつい飲みに行ってしまったという、
今回はしょうもない一面を見せる
佐七です。
はたして事件は
どんな展開をみせるのか?
【捕物帳〇二七「佐七の青春」】
〔主要登場人物〕
お絹
…佐七に声をかけて酔い潰した女。
淡路屋利兵衛
…海産物問屋の主。お絹の旦那。
おきん
…利兵衛の妾宅の小女。
長吉
…質店・駿河屋の小僧。
何者かに殺害された。
佐七の十手や捕縄を持っていた。
お粂…佐七の女房。
辰・豆六…佐七の乾分。
佐七…人形佐七と呼ばれる御用聞き。
〔事件の概要〕
・佐七、お絹に酔い潰される。
・長吉、殺害される。
・辰と豆六、佐七を発見。
・お絹、行方不明。
・お粂、お絹の居所を探り出す。
・佐七、事件の全容解明。
本作品の味わいどころ①
佐七、醜態をさらす
いい女について行ったのはまだしも、
酔い潰されて、
さらに河岸に繋いであった
舟の中に放り出され、
折から降り始めた雨に打たれて
ずぶ濡れになっているのですから
みっともないことこの上なしです。
さらにその醜態を、
探しに来た辰と豆六に見つかる始末。
いや、もっと大変なのは
十手・紙入れ・捕縄が、
懐から抜き取られているという大失態。
いやいや、もっともっと大変なのは、
それが殺害された小僧・長吉の懐から
出てきたという、
人形佐七全百八十話中、
最大の失態を演じる佐七なのです。
水もしたたるいい男も、
江戸一番の切れ者御用聞きも、
こうなってはおしまいです。
この、珍しく醜態をさらしている
佐七の姿こそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ②
お粂、手柄を挙げる
本来なら
窮地に陥りかねない事態なのですが、
さすがは人形佐七、
それまでの実績がものをいったのか、
何ら問題なく
平穏無事に何事も起きません。
長吉殺害の一件は何ら進展せず、
佐七を惑わせた
お絹の行方もはっきりしません。
事態を動かしたのは、なんとお粂です。
行方不明のお絹の監禁場所を突き止め、
そこに大きな事件が絡んでいることを
佐七に告げるのです。
本作品、
佐七が推理する場面はまったくなく、
お粂の地道な捜査が
すべてを解決したのです。
この、名探偵・お粂の見事な手柄こそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ③
お粂、種明かしする
なぜお粂に
そのような活躍ができたのか?
お粂は恐る恐る種明かしをするのです。
その詳細はぜひ読んで
確かめていただきたいと思います。
なんと冒頭の夫婦喧嘩から、
お粂が仕組んだ策略であり、
そこに大きな事件が
割り込んできていたのです。
作者・横溝の、技ありの一本です。
この、お粂の種明かしこそ、
本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。
夫の浮気をこらしめようと、
妻が一芝居打った、
それによって夫が窮地に立ってしまう、
それを妻が取り返そうと踏ん張る。
佐七とお粂の夫婦仲も、
雨降って地固まるの言葉のごとく、
よりいっそう強い絆で結ばれ…、
と思って読み進めると、
最後はやはり痴話喧嘩。
人形佐七全百八十話、
こういう物語が
一つあってもいいでしょう。
ぜひご賞味ください。
なお、ちょっと気になるのは
豆六の台詞。
「こら、風速五十メートルや」。
いくら何でも江戸時代に
メートルという外来語は
あり得ないでしょう。
本作品は昭和15年に
雑誌「新青年」発表、
昭和16年に春陽堂書店
「人形佐七捕物帳」に収録、
さらに講談社
「定本人形佐七捕物帳全集」、
春陽文庫「人形佐七捕物帳」などに
収録されてきているのです。
どこかの段階で
編集者が気づかなかったのか?
(2018.1.15)
〔「完本 人形佐七捕物帳二」〕
敵討人形噺
恩愛の凧
まぼろし役者
いなり娘
括猿の秘密
戯作地獄
佐七の青春
振袖幻之丞
幽霊姉妹
二人亀之助
風流六歌仙
生きている自来也
血染め表紙
怪談五色猫
本所七不思議
紅梅屋敷
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