「乙女の本棚シリーズ 8~14」

文学の新しい魅力

「乙女の本棚シリーズ(既刊7冊)」
 立東舎

文学の名作を、
現代のイラストとともに
一冊の絵本に仕立てた
立東舎の「乙女の本棚」シリーズ。
2016年暮れに
太宰治「女生徒」から始まった
この企画も、2019年末の段階で
計14冊が出版されています。
1~7はすでに取り上げましたが、
今日は8~14の
7冊をまとめてみました。

「夢十夜」(夏目漱石)(絵:しきみ)
作品自体が訳のわからない
「夢」を扱っているのですから、
そのイラストもこれくらい
訳がわからないものの方が
いいに決まっています。
このしきみというイラストレーター、
過去2作品を見ると、
「猫町」も夢の中の幻想、
「押絵と旅する男」も
遠眼鏡から見た異世界であり、
本作品と酷似しています。

「外科室」(泉鏡花)(絵:しきみ)
一筋縄ではいきません。
またもやイラストが作品理解の
何の役にも立っていないからです。
すべてが奇妙奇天烈です。
患者の女性はなぜか
艶やかな赤い羽織を羽織っている。
それだけならまだしも、
胸には般若の面、
顔には西洋のマスクをつけている。
看護師たちは
時代考証など全く意に介さない、
和服にエプロンとハイヒールの
和洋折衷の術衣
(というかコスチューム)。
顔は黒く影で表現され、
悪の秘密結社の様相を呈している。
もはやカオス(混沌)です。

「赤とんぼ」(新美南吉)(絵:ねこ助)
変わらない赤とんぼと
変わっていくおじょうちゃん。
そしてはじめは両者が
和服と洋装の違いだけだったのが、
次第にその姿の乖離が大きくなっていく
仕掛けになっているのです。
つまりこれは
一夏を過ごした時間の中での、
お嬢ちゃんの成長を表しているものと
推察できます。

「月夜とめがね」(小川未明)(絵:げみ)
絵本にするにはちょうどいい、
読み手を幸せな気分にしてくれる
童話です。
立東舎刊「乙女の本棚」シリーズにしては
まっとうな作品をチョイスしています。
この、2番目に現れた少女、
足を怪我していると
泣いて戸をたたいたのですが、
おばあさんが例のめがねをかけてみると
その姿は胡蝶であることが
わかったのです。
おばあさんは機転を利かせて
裏庭の花園へと案内するのですが、
気がつくと
少女の姿は見えなくなっていたのです。

「夜長姫と耳男」(坂口安吾)
(絵:夜汽車)

綺麗です。
全然グロテスクではありません。
夜長姫も残酷さなど微塵も感じさせず、
お人形のようなかわいらしさです
(和服に骸骨が描かれていますが)。
イラストレーター・夜汽車の構築した
世界は、「美」なのでしょう。
原文の持つ坂口安吾の臭気を一掃し、
夜長姫が耳男に傾けた愛情のみを
クローズアップさせたものと
考えられます。

「桜の森の満開の下」(坂口安吾)
(絵:しきみ)

狂気が迸る三つの場面は、ある意味
消化不良の感がしてなりません。
そのかわりにしきみが行っているのは、
全編にわたっての
「満開の桜」の表現です。
女の着物が桜色で
表されていることもあり、
すべてのイラストは
桜色が基調となっています。
ページをめくる度に桜、桜、桜なのです。
桜色で染まっているにもかかわらず、
そこには華やかさなど
微塵も感じられず、
気味の悪い静寂と
そこはかとない悲しみが
滲み出てきているのです。

「死後の恋」(夢野久作)
(絵:ホノジロトヲジ)

夢野が並べた素材が
エロ・グロなのですが、
その表面の奥に、
えもいわれぬほどロマンチックな
ストーリーが広がっていたことに、
改めて気づかされました。
これこそ「乙女の本棚」の真骨頂です。
現代的なイラストで
作品をデコレーションし、
それまで気づかなかった作品の魅力を
浮かび上がらせる。それにより、
文学に縁のなかった若い人たちに
その素晴らしさを訴える。
本書はまさにそのコンセプトが
最大限に生かされた
素晴らしい一冊となっています。

短篇作品一篇に
2000円近くの金額を投じるのは、
もしかしたら
ためらいがあるかも知れません
(私もそうです)。ぜひ、
お近くの図書館でお探しください。
これまで文学にあまり縁のなかった方は
文学を身近に感じることができます。
文学に十分親しんできた方は、
文学の新しい魅力を
発見できるはずです。

(2020.2.13)

Aravind kumarによるPixabayからの画像

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