「百年文庫016 妖」

「妖」しいです。「妖」しすぎます。

「百年文庫016 妖」ポプラ社

「夜長姫と耳男 坂口安吾」
姫の護身仏を彫るよう
命じられた若い匠の耳男は、
大耳と馬顔を
姫に罵られて激昂し、
仏像ではなく
恐ろしい化物の像を
彫る決意をする。
耳男は作業小屋の中に
蛇の死骸を吊し、
蛇の生き血を飲み、
3年の間、
一心不乱に像を刻む…。

「光る道 檀一雄」
宮廷の守護にあたる
衛士・小弥太は、
故郷の秋の風情を懐かしむ
独り言をつぶやいていた。
それを御簾の影から聞いていた
三の姫宮は、
わたしを負ぶってそこまで
逃げてくれと小弥太に命じる。
次の日の夕暮れ、
小弥太は姫を略奪する…。

「秘密 谷崎潤一郎」
女装癖をもつ男が、かつて
関係を持っていた女と出会い、
再び接触を図る。
関係を再開する条件は
「秘密」を守ること。
男は毎夜目隠しをされ、
逢い引きの場所へ到達する。
ある日、男はどうしても
女の正体を知りたいと思い…。

百年文庫25冊目読了です。
ようやく1/4完了です。
まだまだ道は長い。

本書のテーマは「妖」。
思いきり「妖しい」です。
そして思いきり「濃い」のです。
なにせ坂口安吾檀一雄
谷崎潤一郎の面々ですから。

「妖」しいのは女です。
「夜長姫」は自分の守護仏を彫る
仏師の耳を奴隷女に切り落とさせます。
「光る道」の三の姫宮もまた
幼いながらも妖艶な雰囲気を
湛えています。
「秘密」の女は謎だらけです。
三人とも「妖」しすぎます。

「妖」しいのは男ともいえます。
「夜長姫」に仕える耳男は
大量の蛇を作業小屋の天井に吊し、
その生き血を飲み干しながら
化物像を彫り続けます。
「光る道」の小弥太は
姫を護ろうとするのか
殺そうとするのか判然としません。
「秘密」の主人公は女装が趣味です。
やはり三人とも「妖」しすぎます。

「妖」しいのはさらにその筋書きです。
「夜長姫」は一種のホラー小説。
「光る道」は
前半こそロマンチックですが
後半はある意味スプラッター。
「秘密」はミステリーそのものです。
言うまでもなく三篇とも「妖」しすぎます。

そして最も「妖」しいのは作者でしょう。
坂口安吾の作風は狂気に満ちています。
檀一雄はあの太宰治の悪友であり
連日のように連れ立っての
放蕩三昧であったといいます。
谷崎潤一郎に至っては
存在そのものが「妖」しすぎます。

しかも坂口安吾は
谷崎に憧れて小説を志しているのです。
また一時期、檀一雄の家に
身を寄せていたこともあります。
三人がそれぞれ複雑な人間関係を
形成していました。
三人の関係も
当然のごとく「妖」しすぎます。

百年文庫100冊の中で
テーマと最も合致している本書。
「妖」しすぎます。

(2020.2.16)

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