「生まれ出づる悩み(作品集)」(有島武郎)

有島武郎を読んでみませんか。そして…

「生まれ出づる悩み(作品集)」
(有島武郎)角川文庫

「生れ出づる悩み」
自ら描いた
数点の絵画を持参して、
訪ねてきた「君」。
「私」が評価とともに
厳しい感想を告げると、
「君」は「今度はもっといいものを
描いて来ます」と言って
立ち去る。
十年後、「君」の書きためた
スケッチが「私」のもとに
送られてきて…。

今ではあまり顧みられることのない
作家となってしまいました。
有島武郎です。
書店でも新潮文庫の
「小さき者へ・生れ出づる悩み」を
見かけるくらいです。
しかしまだまだ忘れ去るわけには
いかない作家の一人です。

「フランセスの顔」
「私」は
地方のある農家の家を訪れる。
一度目は晩秋の頃。
その家に住む
少女・フランセスを、
出会ったその瞬間から
「私」は強く愛した。
二度目の訪問は翌年の盛夏の頃、
そして三度目は
さらに翌年の早春の頃であった。
フランセスは…。

1878年生まれの有島の書く日本語は、
平易でありながらも格調が高く、
若い人たちに
ぜひ味わって欲しい文章です。
作風も幅広く、
特に本作品集に収められた四篇は、
芸術をめざす人間の生き方を描いた
「生まれ出づる悩み」、
若き日のある少女との邂逅を描いた
私小説「フランセスの顔」、
キリスト教における
歴史的事実を描いた「クララの出家」、
犯罪小説の原型ともいえる
「石にひしがれた雑草」、
すべて趣が異なります。
幅の広い創作分野です。

「クララの出家」
クララは、出家する前日の朝、
パオロ、フランシス、
オッタヴィアナの
三人の男たちが現れる
奇妙な夢を見て目覚める。
夢の中で、クララは
様々な葛藤を強いられる。
そして最後には天使ガブリエルの
炎の剣に貫かれ、清められ…。

さて、本書は
1977年発行(改版十六版)の
角川文庫(とうの昔に絶版)。
古書を入手したものです。
「生まれ出づる悩み」以外の作品は
現在流通していませんので、
貴重な存在となります。

「石にひしがれた雑草」
「僕」はM子と婚約するが、
M子の両親から提示された条件は
「三年間の洋行」。
始終M子から届いた手紙が
途絶えたことに
不審を感じた「僕」は、
密かに帰国し、
M子の様子を探る。
M子は「僕」の友人・加藤と
いたわり合うように
歩いていた…。

それだけでなく、
この時代の文庫本は、
今とは比べものにならないくらい
巻末資料が充実している点においても
貴重といえます。
「注釈」はもとより、
「解説」も「人と作品」「作品解説」
「作品鑑賞」に分かれていて
充実しています。
加えて「同時代人の批評」が
読み応えがあります。
本書には加能作次郎、菊池寛などの
批評文が掲載されています。
そして作家を知るための
「主要参考文献」、
「年譜」と続くのです。
作品と作家について、
より深く理解する手がかりが
豊富に掲載されているのです。

表紙は地味ですが、
この頃の角川文庫の有島作品は、
すべてこの共通デザインであり、
揃えるとそれなりに見栄えがします
(私は本書のほか「カインの末裔」
「或る女」「一房の葡萄」
「惜しみなく愛は奪う」を
所有しています。
本書を含めた5冊で
すべてであるはずです)。

とりとめもなく
書き綴ってしまいました。
みなさんも
有島武郎を読んでみませんか。
そして
古い文庫本を楽しんでみませんか。

(2021.7.28)

Christine SponchiaによるPixabayからの画像

【青空文庫】
「生まれいずる悩み」(有島武郎)
「フランセスの顔」(有島武郎)
「クララの出家」(有島武郎)

【関連記事:有島武郎作品】

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