「百年文庫036 賭」

私たちの生活は「選択」の連続です。

「百年文庫036 賭」ポプラ社

「マークハイム スティーヴンスン」
クリスマスの日、
骨董品店で起きた殺人事件。
店主をナイフで刺し殺した
マークハイム。
彼が金を奪って
立ち去ろうとしたとき、
突然現れた謎の男は
「お前のことは、心の奥の奥まで
知っている」と告げる。
対峙するマークハイムと男…。

百年文庫第36巻。
本書のテーマは「賭」。
これをどう読み解くか?
直接的な「賭け」が扱われているのは
最後の「百万ポンド紙幣」のみです。
3作品に共通するのは
むしろ「選」なのではないかと思います。

スティーヴンスンの主人公・
マークハイムは短絡的に
骨董品店主を殺害したものの、
罪の恐怖に怯えます。
そのため自分の幻覚と
相対するのですが、
その誘惑を断ちきります。
「俺は敢然として
 誘惑の手の届かないところへ
 自分の身を置くことができるのだ」

その「選択」こそ、
この作品の救いとなっています。

「メアリ・スチュークリ
        エインズワース」

21歳の「わたし」は、
メアリ・スチュークリと出会い、
一目で恋に落ちる。
結婚の承諾も得て、
万事が順調に進み、いよいよ
明日が婚礼という日の夕刻、
「わたし」は一人の婦人・
イライザと関わったことから、
その運命が暗転していく…。

エインズワースの語り手・「わたし」の
「選択」は大きな不幸を呼び寄せます。
「行動の分かれ道において
 いずれを進むかの選択権も
 恒に与えられていた。
 ただ不幸にして、
 わたしの選択した道は誤りだった、
 而もそれに気付いた時は
 後戻りは最早できなかったと
 云う話なのである」

「百万ポンド紙幣 トウェイン」
米国民の「私」は、
ある事故が原因で無一文のまま
ロンドンに流れ着く。そこで
二人の老人に呼び止められ、
百万ポンド紙幣を手渡される。
老人たちはその紙幣だけで
人間一人が1ヵ月間
生活できるかどうか
賭けているのだという…。

百万ポンド紙幣を預けられた「私」は
とんとん拍子で財を成したように
とらえられるかも知れませんが、
自分の行動については
綿密な状況分析を行った上で
「決断」しています。

考えてみると、
私たちの生活は「選択」の連続です。
それなのに自分が「選択」したことに
気付いていないケースが
多いのではないかと思うのです。
「私」のように幸せをつかみ取るのも、
「わたし」のように不幸になるのも、
全ては自身の「選択」の結果なのです。
人間、常に正しい選択が
出来るはずはありません。
時には選択を誤ることもあるでしょう。
それでもマークハイムのように
土壇場で踏みとどまる選択が
できなければならないのです。

さて、私はここまでの人生の岐路を、
誤りなく「選択」できたのか?
就職、結婚、子育て、…。
考えるのはやめましょう。

(2021.12.23)

Arek SochaによるPixabayからの画像

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