「マークハイム」(スティーヴンスン)

「悪」対「さらなる悪」、どちらが勝つのか?

「マークハイム」
(スティーヴンスン/池央耿訳)
(「百年文庫036 賭」)ポプラ社

「マーカイム」
(スティーヴンソン/
  高松雄一・高松禎子訳)
(「マーカイム・壜の小鬼」)岩波文庫

クリスマスの日、
骨董品店で起きた殺人事件。
店主をナイフで刺し殺した
マークハイム。
彼が金を奪って
立ち去ろうとしたとき、
突然現れた謎の男は
「お前のことは、心の奥の奥まで
知っている」と告げる。
対峙するマークハイムと男…。

「宝島」「ジキル博士とハイド氏」で有名な
英国の作家スティーヴンスン。彼は
その二作だけではありませんでした。
魅力ある多くの作品を
書いているのです。
本作品も、スリルとサスペンスに満ちた
傑作短篇です。

殺人を犯したマークハイム。
用意周到に練られた殺人ではなく、
無計画に行われたものなのです。
おそらく前後のことなど考えず、
金ほしさのあまり、場当たり的に。
そのため彼は、行為に及んだあと、
極めて人間らしく動揺します。

まず、自分の不手際を思い知ります。
「アリバイを用意しておくべきたっだ」
「ナイフを使ったのもまずかった」
「殺すまでもなかった」

いかにも短絡的な思考の
持ち主であることがうかがえます。

次に、
起こりうる未来の恐怖に怯えます。
「遠からず警官の手が
 彼の方をむずと掴むであろう」
「法廷の被告席、刑務所、絞首台、
 黒い棺が瞼を過った」

実は小心者だったのでしょう。

そして妄想にとらわれます。
「近隣の誰彼が青白い顔をして
 窓の外で聴耳を立てていはせぬか」
「道行く人が不審を抱いて
 足を止めはせぬか」

彼の精神は、殺人のような
大それた行為に耐えられるほど
強くはなかったのです。

そのあとに突然現れた
謎の「男」の正体は…、
いうまでもなく「彼自身」です。
いわゆる
ドッペルゲンガーなのでしょう。
「男」はマークハイムに向かって、
早く金を奪って
ここを立ち去るよううながします。

さて、ドッペルゲンガーを
扱った小説といえば
ポー「ウィリアム・ウィルソン」
真っ先に思い浮かべてしまいます。
こちらは「私=本体」が
「悪」であるのに対し、
「分身」が「善」の立場でした。
本作品の場合は「分身」がさらに
「悪」の言葉を囁き続けるのです。
「悪」対「さらなる悪」、
どちらが勝つのか?

結末はぜひ読んで確かめて下さい。
クリスマスに設定してある
理由がわかりました。
「殺人」という犯罪を扱った作品ながら、
少しだけ救いが残されています。
それにしてもこの圧倒的な描写力。
もしかしたらスティーヴンスンは
実際に人を殺したことがあるのでは、と
疑いたくなるほどです。

(2021.11.19)

created by Rinker
ポプラ社
¥298 (2024/05/18 12:31:01時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥924 (2024/05/18 16:42:42時点 Amazon調べ-詳細)

【関連記事:スティーブンスン】

【関連記事:ドッペルゲンガー】

【今日のさらにお薦め3作品】

【スティーブンスンの本】

created by Rinker
Shinchosha/Tsai Fong Books
¥649 (2024/05/18 16:42:43時点 Amazon調べ-詳細)

【こんな本はいかが:恐怖小説】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA