「自由と規律」(池田潔)

自らの心の中に、自らの行動を律する「規律」をもつ

「自由と規律」(池田潔)岩波新書

「自由と規律」岩波新書

ある行為をして善いか悪いかは
すでに決っていて、
その人間をしてこの決定に
服せしめる力が規律である。
すべての規律には、
これを作る人間と
守る人間があり、
規律を守るべき人間が
その是非を論ずることは
許されないのである。…。

ブラック校則が云々されている
現代において、若い人が読めば
卒倒してしまうのではないかと
思われる内容です。
「生徒と話しあって
校則を決めよう」という最先端の流れとは
百八十度異なる方向性です。

岩波新書の中でも名著といわれる、
池田潔の「自由と規律」を
何十年ぶりかで読み返しました。
本書は第一刷が1949年。
今から70年以上前の新書です。
「規律」についての著者の考え方は、
「古い時代のもの」と
切り捨てていいものではありません。
今読み返しても、
新しい気づきが随所にあり、
鮮度は全く失われていません。

〔本書の内容〕
まえがき
パブリック・スクールの本質と起源
その制度
その生活
 (一)寮
 (二)校長
 (三)ハウスマスターと教員
 (四)学課
 (五)運動競技
スポーツマンシップということ
※詳しくはこちらから(岩波書店HP)

「規律には、
これを作る人間と守る人間があり、
規律を守るべき人間が
その是非を論ずることは許されない」と
言い切っているのは、なにも
戦時中の軍隊的発想でもなければ、
日本古来の封建的思考の
残滓でもありません。
そこにはいくつかの前提があるのです。

その前提の一つは、
「自由とは何か」という定義でしょう。
自由とは規律や規制を
取り払うことではないのです。
「現今、われわれの社会の一部には、
 旧套を捨てて
 新奇に赴くに急なる余り、
 事物の真価に対する
 公正な認識を誤り、
 自由と放縦を混同して
 あらゆる規律を圧制として
 排撃する気風の強いことが
 云々されている」

池田のこの言葉は、現代にこそ
当てはまるのではないかと思われます。

前提の二つめは、
「規律」となるものの
運用の仕方でしょう。
池田はパブリック・スクール在学中の
事例を紹介しています。
当時、全寮制のパブリック・スクールは
ほぼ外出禁止であり、
理髪店の利用も学校特約店でなければ
認められていませんでした。
学生であった池田は、
特約店がいつも
混雑していることを理由に、
悪いと知りつつそれ以外の店に
立ち寄ります。
散髪している最中、
鏡に映ったとなりの客の顔を見ると、
それはなんと校長。
処分されることを覚悟した池田に、
校長はこう投げかけたのです。
「私が校長を勤めている学校に、
 やはり貴方と同じ
 日本人の学生がいてね。
 もし逢うような序があったら
 言伝てしてくれ給え。
 この店にはリースの学生は
 来ないことになっている、と」

ことさらに権威を笠に着るのでもなく、
杓子定規で切り捨てるのでもなく、
そこに生徒を育てるという
強い意志と温かさを感じます。

前提の三つめは、
「学ぶ者の心構え」でしょう。
学校は、学ぶためにあるという
至極当たり前のことなのですが、
私たちはそのことを
無視してきたような気がします。
池田は言い切っています。
「大学とか、高等専門学校とかは、
 高度の学問を修める人間のための
 施設であって、
 たとい一家の経済が許すとしても
 これを学ぶ素質や意欲を
 持たないものが
 志すところではない」、
「学校とは
 学問をする人間の行くところ、
 然らざる人間は行かない
 ―はっきりしている」

当時のイギリスの
パブリック・スクールは、
そうした規則面の厳しさだけでなく、
食事も制限されていて
(なんと夕食なし!)、
学生は空腹にも耐えなければ
ならなかったというから驚きです。

そうした教育の
意図するところについて、
池田はかつての慶應義塾長
小泉信三の言葉を借りて
こう述べています。
「正を正とし邪を邪としてはばからぬ
 道徳的有喜を養ひ、
 各人がかかる勇気を持つところに
 そこに始めて真の自由の保障がある
 所以を教へることに在る」

言い換えれば、自らの心の中に、
自らの行動を律する
「規律」を持つ人間こそが、
真の「自由」を得る、という
ことなのでしょう。

現代日本を見渡したとき、
「自由」と「放縦」が
はき違えられたまま数十年が経過し、
教師サイドの対応に
画一化が求められるあまり、
状況に応じた柔軟な対応が難しくなり、
学校はすでに
学びの場ではなくなってしまった
現状があります、
前提がくずれている以上、
池田の主張するところは
理解されにくくなっているのは
確かです。

今日のオススメ!

社会が劣化してきているのか、
それとも時代が新しい民主主義に
移行しているのか、
私にはよく分かりませんが、
本書で述べられている池田の言葉を、
折に触れて噛み締める必要は
ありそうです。
教養を大切と考える貴方に薦めたい、
古典的な新書本です。

(2023.4.25)

Brigitte WernerによるPixabayからの画像

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