経済戦争の焼け野原が広がっている現代に
「太平洋戦争 日本の敗因1」
(NHK取材班編)角川ソフィア文庫

日本や日本人が戦前と
少しも変わっていない部分。
それを、五〇年前の太平洋戦争の
いくつかの戦局を
抜き取り分析することによって、
現代の日本社会にむかって
逆噴射してみたい。
それは、いまの日本の
政治や経済が抱えている…。
1992年12月から1993年8月にかけて
「NHKスペシャル」枠で放送された、
太平洋戦争をテーマにした番組
「ドキュメント 太平洋戦争」。
全6回で放送された番組を、
30年前、見ていました。
かつて(今でも)戦争に関する
ドキュメンタリー番組といえば、
戦争被害の悲惨さにスポットを当て、
情緒面から
「戦争は起こしてはいけない」と訴える
反戦ものがほとんどでした。
しかしこの番組は、
「なぜ日本は戦争に負けたのか?」という
視点から取材・検証し、
論理的実証的に分析していたのが
特色であり、印象に残っています。
その内容を、書籍化・文庫化したのが
この、角川ソフィア文庫
「太平洋戦争 日本の敗因」なのです。
〔本書の内容〕
まえがき
プロローグ
1 甘く見た船舶問題
2 破綻した計画
3 急落する国力
4 反撃するアメリカ潜水艦
5 崩れ去る日本経済
6 飢餓と敗戦と
参考文献・あとがき・文庫版あとがき
本書が書かれた(番組が制作された)のは
戦後50年目、そして現在はそれから
さらに30年が経とうとしています。
太平洋戦争の真実については、
現在でもなお衝撃を受ける内容が
いくつも含まれています。
一つは戦争についての
「全体計画」がなかったことです。
というよりも、全体を見渡して
責任を負うべき人物が
不在であることです。
社長がいない中で、
発言力の強い者数人が
勝手に事業を進めていたとしか
思えないのです。
そのような会社は
即座に潰れてしまうでしょう。
日本は資源のない国です。
しかも周囲を海で囲まれています。
必要な物資は
輸入に頼らざるを得ないのです。
しかし、資源を収奪する目的地としての
東南アジアを制圧するまでは
いいのですが、それらを輸送する、
いわゆる「シーレーン」の確保を
全く考えていなかったというのです。
海軍と陸軍の長官たちが
自分の立場のみ主張し、
全体を司る人間がいない。
そのような中で、
日本という国の未来を賭けた国策が
進行したことの恐ろしさを感じます。
もう一つは、戦争に関する
「客観的データ」の欠如です。
アメリカの国力を過小評価し、
戦時中の船舶損耗率を見誤り、
失敗の原因を考えず、
考えられない「過ち」を繰り返した
結果の敗戦なのです。
「客観的データ」ではなく「希望的観測」、
「冷静な状況分析」ではなく
「それぞれの立場と面子」、
「柔軟な対応」よりも「事なかれ主義」、
そうしたものが優先された結果、
無謀な戦争に突入し、
成功の見込みのない作戦によって
多くの兵士の命を散らし、
失敗を繰り返した上で、
必然的に辿り着いた
「敗戦」であることがわかります。
これは戦時中の特殊な事例なのか?
決してそうではないでしょう。
現代の政治家たちも同様です。
「少子化対策」一つとっても、
首相が責任を持って全体計画を
策定した形跡はこれまでありません。
その場しのぎの的外れの政策だけが
漫然と出されるだけです。
「経済回復」「首都機能の地方移転」
「国土防衛」等々、
全体計画なき「政策もどき」ばかりが
目につきます。
政治家の誰しもが
責任を取ろうとしていないのです。
気がつけば、
一部の大手企業だけが優遇され、
その株価の上昇だけが論議され、
サラリーマンの給料は30年間上昇せず、
日本は世界に取り残され、
国民の生活は置き去りにされ、
見渡す限り、
経済戦争の焼け野原が
広がっている状態です。
NHKがこの番組を制作して
告発してからもなお、
日本は「過ち」を
繰り返し続けていたのではないかという
思いが拭えません。
太平洋戦争を見つめ直す、というよりも
現代日本を検証する意味で、
本書は非常に大きな価値を
持っていると考えます。
一読の価値ありです。
〔「太平洋戦争 日本の敗因」全6巻〕
1 日米開戦 勝算なし
2 ガダルカナル 学ばざる軍隊
3 電子兵器「カミカゼ」を制す
4 責任なき戦場 インパール
5 レイテに沈んだ大東亜共栄圏
6 外交なき戦争の終末
かつてこの本を
すべて所有していたのですが、
処分してしまいました。
先日、丸山静雄著
「インパール作戦従軍記」を読んで
ふと思い出し、
全6冊を中古で購入し直し、
再読している最中です。
手放したとしても、
再入手は容易になりました。
本は今や、人類の共有財産です。
(2023.5.9)

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