「不死身の特攻兵」(鴻上尚史)①

この国の憂うべき現実

「不死身の特攻兵」
(鴻上尚史)講談社現代新書

戦争の愚かさや悲劇について
書かれてある書物はたくさんあります。
特に特攻隊員の痛ましい死について
涙を誘うような感動秘話的な物語は
数多く存在します。
しかし、創作としての小説ではなく、
冷静に取材を積み重ね、
その「事実」に迫ろうとした書物が
ベストセラーになることは
あまり多くないのではないかと
思うのです。

本書は特攻作戦の命令を受け、
9回出撃し9回生還した
佐々木友次氏へのインタビュー
(2015年の取材時に92歳)から、
特攻兵の真実の姿を追究したものです。

頁をめくる手が止まりませんでした。
全ての人間が戦争一辺倒の「空気」に
押し流されていた中で、
論理的科学的な思考から
自分の意見を表明し、
実行していた人間がいたことに
ただただ驚きました。
自分の勉強不足が感じられました。

特攻作戦は通常爆撃と比較して
非効率であること。
機体とパイロットが爆弾を搭載した
航空機が直接体当たりするよりも、
爆弾のみを直撃させたほうが
効果的であること、
そうしたことを踏まえて佐々木氏は
「より多くの敵艦を沈めること」を
第一義として、体当たりすることなく
爆弾を投下し、帰還してきたのです。

本書に書かれてある「軍隊」には、
日本特有の、「目的」を喪失した
集団行動が蔓延しています。
本来は「敵艦を沈めること」が
目的であるはずなのに、
上官や軍にとっては
「戦果を華々しく報告できること」や
「国民の戦争意識の高揚をはかること」
などの方が大切だったのでしょう。

若い頃、いくつかの「特攻美談」に触れ、
そうした我が身を犠牲にした愛国心は
いつの時代でも必要なのだと
錯覚していた記憶があります
(もちろん愛国心は必要ですが)。
しかし、「美談」などではないことが
よくわかりました。

こうした「美談」がまかり通った背景に、
生き残った上官たち
(あるいは上層部の人間)が、
自分たちの無能無策を糊塗するための、
そして若者たちを死に追いやった責任を
回避するための「言い訳」が
巷に溢れたものを、
そのまま受け入れていたのだと
気付きました。

こうした本が、前後70年を過ぎないと
現れなかったことにこそ、
この国の憂うべき現実があるように
思われます。
中学生、高校生に
ぜひ読んでいただきたい一冊です。

※ベストセラー書を意識的に
 回避する癖が私にはあるのですが、
 我慢できずに
 買って読んでしまいました。

(2019.8.16)

CouleurによるPixabayからの画像

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