「図解 人類の進化」(斎藤成也)

「人類の進化」の入門書として最適の一冊

「図解 人類の進化」(斎藤成也)
 講談社ブルーバックス

「図解 人類の進化」

人類は、
猿人→原人→旧人→新人という
段階を踏んで進化した、
という説明を
聞いたことがあるでしょう。
この説明自体は
大筋でそのとおりなのですが、
仮説の根底にあった考え方には
誤りがあったことが、
今ではわかっています。…。

かつて社会科の教科書といえば、
「アウストラロピテクス」から
始まっていました。
でも令和の現代では、
「猿人」の記述はあるものの
「アウストラロピテクス」という言葉は
どうやら消えてしまったようです。
それは1980年代以降の
急速な人類進化に関する
研究の成果といえそうです。

その「人類の進化」ですが、
猿から進化した(正確には
猿と同じ祖先から進化した)ことは
誰しもが理解していることですが、
その詳しい道筋になると説明できる方は
決して多くはないでしょう。
本書はそうした「人類の進化」に関わる
入門書としての役割を果たしています。

〔本書の内容(章立て)〕
序章
第1部 進化のしくみ
第1章 進化とは
第2章 進化の中心、ゲノムDNA
第3章 人類進化の年代を測る
第4章 過去の環境変動をさぐる
第2部 人類のあゆみ
第5章 哺乳類の誕生から
    霊長類の出現まで
第6章 サルからヒトへ~猿人の登場
第7章 原人の進化と
    ユーラシアへの拡散
第8章 旧人の出現と
    ネアンデルタール人の謎
第9章 現生人類
    (ホモ・サピエンス)の起源
第10章 ~私たち
    ホモ・サピエンスを理解する~
第11章 日本列島人の変遷
第12章 人類の未来

今日のオススメ!

入門書としての本書の特徴①
幅広く進化の仕組みから解き明かす

そもそも「進化」とは何か?
一般的には
正しく理解されていない部分の多い
「進化」の起こる仕組みから
丁寧に説明しています。
第1章「進化とは」で、
進化学の歴史を概観し、
第2章「進化の中心、ゲノムDNA」で、
DNAがどのように進化に
関わっているかを解説しています。
第3章「人類進化の年代を測る」で、
進化を証拠だてするための
年代測定法について触れ、
第4章「過去の環境変動をさぐる」で、
人類進化に大きな影響を及ぼした
過去の地球の環境変動について
説明しています。

いきなり本題に入り、
わけのわからぬまま進行する
科学解説書が多い中、
必要な知識を網羅的に取り扱い、
わかりやすく解説しているのは、
初心者にとって
きわめて親切な姿勢といえるでしょう。
ただし、
ある程度理解できている方にとっては
第1章から第4章までの
第1部は不要です。
飛ばして読んでも
何ら差し支えがありません。

入門書としての本書の特徴②
哺乳類から猿人原人旧人新人、
そして日本人へ

第2部こそ本題となるのですが、
ここでも本書は
丁寧な解説と説明に終始しています。
進化の道筋として
哺乳類から現在の人類までの流れを、
段階を追って取り上げています。
第5章は小見出し通り
「哺乳類の誕生から霊長類の出現まで」、
そして第6章
「サルからヒトへ~猿人の登場」で、
いよいよ人類の祖先である
「猿人」の登場です。
第7章「原人の進化と
ユーラシアへの拡散」では、
これまで唱えられてきた
「人類進化の単一種仮説」を
検証しています。
第8章「旧人の出現と
ネアンデルタール人の謎」では、
これまでの旧人像の再考を迫り、
第9章「現生人類の起源」へとつなげ、
ホモ・サピエンス誕生の道筋を
解き明かしています。
第10章「複雑化する文化」では、
文化を持つことが
人類の特徴であることを紹介し、
第11章「日本列島人の変遷」では、
日本人(本土日本人、
アイヌ人、琉球人)を様々な方法で
解析した結果について報告しています。

一通り読むと、スモールステップで
学習しているような
わかりやすさがあります。
段階を追って細かく区切り
(そのため章の数は多くなっているが)、
それぞれを基本的な部分にとどめて
必要以上に深入りしない、
その姿勢はまさに
入門書として最適です。
一つのことをどこまでも
深めていくような形は専門書に任せて、
自然科学新書はこのような形が
望ましいのではないかと思われます。

入門書としての本書の特徴③
理解を助けるイラストの数々

「図解」とありますが、
他のブルーバックスのような
学術的資料(写真・グラフ・チャート・
データ等)が掲載されているわけでは
ありません。
イラストです。
ほぼ2頁に一つの割合で
イラストが挿入されているのです。
科学に馴染みのない方であっても、
これなら安心して読むことができます。

自然科学の本は
得てして無愛想なものが多く、
仏頂面したオジサンのような印象です。
本書は違います。
優しい笑顔で
読み手に迫ってくるのです。

優れた入門書である本書ですが、
もちろん弱点もあります。
本書は2009年に刊行された
「絵でわかる人類の進化」を改訂し、
新書化したものなのですが、
そこからの10年あまりの年月で
明らかになった新事実については
ほとんど触れられていません。
他の分野と異なり、
人類の進化の調査研究の成果は
日進月歩であり、本書の内容は
鮮度の面でいささか問題ありです。

また、人類の進化でわかりにくいのは、
「類人猿」「猿人」「原人」
「旧人」「現生人類」や
「ホモ・サピエンス」「ホモ・エレクトス」、
「アウストラロピテクス」
「ピテカントロプス」「ジャワ原人」
「北京原人」といった名称や分類が
混在していることです。
そのあたりを丁寧に解説してあれば、
本書の価値は
さらに上がったことでしょう。

それでも本書は、
やはり入門書としては最適です。
普段は自然科学に馴染みのないものの、
「進化」について知ってみたいと
考えているあなたに
お薦めしたい一冊です。
ご賞味あれ。

(2023.7.10)

AlexaによるPixabayからの画像

【関連記事:ブルーバックス】

【ブルーバックスはいかがですか】

【今日のさらにお薦め3作品】

【こんな本はいかがですか】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA