「天国の花火 恋火」(松久淳+田中渉)

天国と現世、交錯する二つの筋書き

「天国の花火 恋火」
(松久淳+田中渉)新潮文庫

「天国の花火 恋火」新潮文庫

解雇され、やけ酒を飲んでいた
ピアニスト健太は、
怪しげな老人ヤマキと出会い、
そのまま意識を失う。
気が付いた彼がいた場所は
「天国の本屋」。
そこで朗読のアルバイトを
することになった彼に、
ある女性が
一冊の本を持ってくる…。

竹内結子主演の映画の公開から、
すでに20年近くがたっていました。
映画よりも、
やはり本で読んだ方が愉しめます。
2007年に文庫化された本書を、
何年おきかに、それも
夏のこの時期に再読していますが、
今回も素敵な時間を
味わうことができました。

〔主要登場人物〕
町山健太
…リストラされたピアニスト。
 ある女性ピアニストとの出会いが
 きっかけでピアノの魅力を知った。
 天国の本屋のアルバイトとなる。
 31歳。
長瀬香夏子
…飴屋の娘。商工会青年団のリーダー。
 十数年前から中止となっている
 花火大会の復活のために奔走する。
 25歳。
桧山翔子
…加奈子の叔母。将来を嘱望された
 ピアニストだったが、十三年前、
 28歳の若さで病没。
桧山幸
…香夏子の祖母。翔子の母。
瀧本莞爾
…花火職人。かつて翔子の恋人だった。
 自分のせいで
 翔子が死んだと思っている。
ヤマキ
…天国の本屋
 「ヘブンズ・ブック・サービス」店長。
ミツコ
…天国の本屋店員。
アヅマ・ナカタ
…天国の本屋店員。二人で
 漫才のような会話を繰り広げる。

本作品の味わいどころ①
天国と現世、交錯する二つの筋書き

前二作同様、
迷える人間が天国へと「拉致」され、
人間的な成長を経て現世に戻るという
大枠はそのままで、
そこに展開する筋書きは、
より洗練され、より緻密に構成され、
一層味わい深い
物語となっているのです。
特に天国での健太の成長物語と、
現世での香夏子の青春物語が、
結末に向かって
一つに収束されていく展開は、
なんともいえない爽やかさに
満ちあふれています。
天国と現世、
この交錯する二つの筋書きこそ、
本作品の一番の
味わいどころとなっているのです。

本作品の味わいどころ②
健太は自分の音楽を見つけられるか

天国における
健太サイドのストーリーは、いわゆる
「自分探しの旅」のようなものです。
現世でピアニストとしての仕事を
解雇された彼は、
自分の出発点に立ち返り、
自分にとってピアノが
どのような存在だったか
思い出すことになるのです。

その鍵となっているのが、健太に
「椿姫」の朗読を依頼した女性です。
彼女は現世でやり残したことがあり、
それが天国での生活の
障壁となっているのです。
健太は彼女にどんな変化を及ぼすのか、
そして彼女は健太を
どのように目覚めさせるのか、
素敵な健太サイドのストーリー、
それが本作品の味わいどころの
二つめとなっているのです。

本作品の味わいどころ③
香夏子は恋する花火を再現できるか

現世においての香夏子の物語は、
地元のために奔走する
若い女性リーダーの
挑戦といえるでしょうか。
地元に伝説として伝わる「恋する花火」。
それを含めた花火大会復活のために
駆け回るのです。

その「恋する花火」は、
ある花火職人にしか
創り出せないものであり、
その花火職人は香夏子の叔母・
翔子の恋人であったこと、
そしてその花火大会が
中止となった経緯には、
翔子の死が関係していることなどが
明かされていき、
筋書きはクライマックスを迎えます。
ロマンチックな香夏子の冒険的物語、
それが本作品の味わいどころの
三つめとなっているのです。

今日のオススメ!

天国の健太と現世の香夏子、
そしてその二人を介する形で
天国の翔子と現世の瀧本、
それぞれの思いが交わり、
一つになる結末は、何度読んでも
涙腺が最大に刺激されます。
暑い夏の読書に
最適のファンタジーです。
松久淳+田中渉の素敵な一冊、
ぜひご賞味ください。

(2023.8.7)

〔関連記事:松久淳+田中渉の作品〕

created by Rinker
¥440 (2024/05/17 11:07:34時点 Amazon調べ-詳細)
Luc ParretによるPixabayからの画像

【松久淳+田中渉の本はいかが】

created by Rinker
¥1,265 (2024/05/17 11:07:36時点 Amazon調べ-詳細)

【今日のさらにお薦め3作品】

【こんな本はいかがですか】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA