「仲之町の大入道」(木内昇)
その文学的楽しみこそ、本作品の最大の味わいどころ 「仲之町の大入道」(木内昇)(「茗荷谷の猫」)文春文庫 仕事を得て東京にやってきた青年・松原は、下宿の大家から「東京に詳しくなる仕事」を紹介される。「日曜日なら」と安請け...
その文学的楽しみこそ、本作品の最大の味わいどころ 「仲之町の大入道」(木内昇)(「茗荷谷の猫」)文春文庫 仕事を得て東京にやってきた青年・松原は、下宿の大家から「東京に詳しくなる仕事」を紹介される。「日曜日なら」と安請け...
神霊たちが行き交う妖しげな時空間 「宵山万華鏡」(森見登美彦)集英社文庫 女の子は勇気を振り絞って歩き始めた。姉に連れられて訪れた宵山で、繋いでいた手を離してしまい、一人になってしまったのだった。怖い思いに耐えて歩き続け...
交錯する三つの世界、二人の人間、一つの想い 「あの夏を泳ぐ 天国の本屋」(松久淳+田中渉)新潮文庫 ライバルでありながら、ともに水泳をやめた麻子と朝子。見知らぬアロハの老人に導かれ、「天国の本屋」で働くことになった麻子。...
「私」が抱く「複雑な思い」こそ、味わいどころ 「動物学科空手道部2年高田トモ!」(片川優子)双葉文庫 二年生になったトモは、空手道部に新しく入部してきた一年生と接するうちに、不安に駆られる。後輩たちに追い越されたらどうし...
まだまだ本を愛している人間がたくさんいる 「本は、これから」(池澤夏樹編) 岩波新書 ここに集められた文章全体の傾向を要約すれば、「それでも本は残るだろう」ということになる。あるいはそこに「残ってほしい」や、「残すべきだ...
基本的にはミステリではなく、家族再生の物語 「夜行観覧車」(湊かなえ)双葉文庫 あのとき、ドアフォンが鳴らなければ、彩花に何かしていたかもしれない。たった一人の大切な娘のはずなのに、あの瞬間、まったく知らない他人、いや、...
私たちの心をも明るく照らしはじめる 「とわの庭」(小川糸)新潮文庫 裸足のまま勝手口の前に立つ。チェーンを外し、ゆっくりとドアノブを左に回して扉を開ける。大丈夫。きっとこれからも、大丈夫だ。わたしはゴミの要塞をかき分けな...
「ささやか」でありながらも「確かな」生き方 「茗荷谷の猫」(木内昇)(「茗荷谷の猫」)文春文庫 絵を描いて細々と生計を立てている文枝は、最近思うような絵が描けなくなっていた。彼女は、月に一度来訪する緒方という男に絵を預け...
島は、過疎化が進行している日本の故郷そのもの 「望郷」(湊かなえ)文春文庫 閉幕式でスピーチしている姉の姿を見ながら、「わたし」は複雑な心境に駆られる。姉は二十年前に島を捨てて以来、音信不通だったからだ。姉は式典後、同級...
幸せな家庭の、幸せな「ぼく」の姿を 「キャベツ」(石井睦美)講談社文庫 すべての始まりはキャベツだ。そんなふうに言い出すと、このフレーズはなんかこう深遠な哲学的命題のように聞こえる。でもそうじゃないんだ。それは正真正銘の...