
最終的に彼女の望みは何だったのか
「クローディアの秘密」
(カニグズバーグ/松永ふみ子訳)
岩波少年文庫
クローディアは家出を決行する。
相棒に選んだのは
二番目の弟・ジェイミー。
二人はそれぞれバイオリンと
トランペットのケースに
荷物を積み込み、
スクール・バスで
「密航」を開始する。
潜伏先はニューヨーク、
メトロポリタン美術館…。
児童文学の名作といわれる、
カニグズバーグの本作品を
ようやく読むことができました。
やはり名作といわれるものは、
大人が読んでも面白いのです。
弟とともに家出した
クローディアですが、それは
ほぼ冒険と呼ぶにふさわしい体験です。
〔主要登場人物〕
クローディア・キンケイド
…11歳の少女。成績優秀な6年生。
プランニング能力に優れる。
家出し、
メトロポリタン美術館に潜り込む。
ジェイミー(ジェームズ・キンケイド)
…クローディアの二番目の弟。9歳。
小遣いを溜め込んでいたため、
家出の相棒に選ばれる。
「わたし」
(ベシル・E・フランクワイラー)
…語り手。裕福な老婦人。
ミケランジェロ作の可能性のある
天使の像を美術館に売却した。
サクソンバーグ
…「わたし」の顧問弁護士。
本編は「わたし」がサクソンバーグへ
宛てた手紙文として構成されている。
本作品の味わいどころ①
姉弟二人に焦点を絞った「書簡文」
上を見ていただければわかるように、
登場人物はかなり限定的です。
姉弟の家出を描いているのですが、
その両親については
語りの中に登場するだけで、
その姿は登場しないのです。
二人の友人やバスの運転手などの
名前も記されるのですが、
筋書きには関わりません。
いや、
サクソンバーグも名前だけの登場、
語り手「わたし」ですら
前書きにあたる手紙文と、
本編後半にしか登場しないのです。
余計な人物の存在を
できるだけ薄くしながら、
姉弟二人のみに
絞り込んで描いているのです。
それを可能にしているのが
「書簡文」という形態なのでしょう。
「わたし」がクローディアから
聞き取った「冒険」を、
サクソンバーグへ
伝える手紙であるため、
もとより余計なことは必要ないのです。
さらに、「わたし」がなぜ彼に対して
不必要なことを書かずに
姉弟二人だけに焦点を当てたのか、
その理由も
しっかりと設定されています。
この、「書簡文」形式で描かれる
姉弟二人の「冒険」と「秘密」こそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ②
メトロポリタン「美術館お泊まり」
そして読み手をわくわくさせるのが、
メトロポリタン美術館での
一週間のお泊まり体験。
決して快適な
宿泊ではないかもしれませんが、
メトロポリタン美術館に
泊まれるという素敵な体験を、
作者は姉弟二人にさせているのです。
二人が夜の美術館探索を
楽しんではいないのですが、
読み手にはしっかりと
それを想像させてくれます
(私としては図書館に泊まることの方が
魅力的ですが)。
この、スリリングなメトロポリタン
「美術館お泊まり」体験こそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ③
クローディアの家出の理由は何か
姉弟二人の中でも当然のことながら
クローディアが
物語の中心となっています。
彼女の家出の理由は
明確には示されていないのですが、
読み取る限りは家庭内における
「女性差別」なのでしょう。
冒頭部分では、
彼女に与えられる「お手伝い」が
弟たちと比べて多いことに対する
不満が述べられています。
しかしそれは姉としての立場を考えると
決して不平等とはいえないでしょう。
でも、彼女はそのことに対して
不満を抱え、
それが家出の原動力となったのです。
その不満は家出の冒険の中で
少しずつ変質してきます。
最終的に彼女の望みは何だったのか?
それは
ぜひ読んで確かめてくださいとしか
言い様がありません。
この、思春期にさしかかった
クローディアの心の成長こそ、
本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。
小学生や中学生に薦めたいのですが、
大人が読んでも
十分に楽しめる逸品です。
少年少女の心に戻って、
本作品をぜひご賞味ください。
(2025.7.16)
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