「ラッパチーニの娘」(ホーソーン)

妖しい魅力を放つ毒娘と危険な罠に落ちる青年

「ラッパチーニの娘」
(ホーソーン/岡本綺堂訳)
(「世界怪談名作集」)河出文庫

医大生・ジョヴァンニの
下宿先の主は、
ラッパチーニという
医師であった。
彼はその娘・ベアトリーチェの
美しさに魅了される。
しかし彼の父親の友人・
バグリオーニ教授は、
表情を曇らせて語る。
「ラッパチーニは患者を
実験材料としか…。

患者を実験材料としてしかみていない
医学者・ラッパチーニ。いわゆる
マッド・サイエンティストと
いうわけです。
怪奇幻想小説の旗手ホーソーン
いったい
どんな世界が広がっているのか?

〔登場人物〕
ジョヴァンニ・グァスコンティ

…地方からやってきた医大生。
ジャコモ・ラッパチーニ
…ジョヴァンニの下宿の主。医師。
 謎の庭園を創り上げている。
ベアトリーチェ
…ラッパチーニの娘。
 父親の研究を手伝っている。
リザベッタ
…ラッパチーニ家の使用人。
ピエトロ・バグリオーニ
…大学教授。
 ジョヴァンニの父親の友人。
 ジョヴァンニを気にかける。

本作品の味わいどころ①
妖しい魅力を放つ毒娘

「ラッパチーニの娘」という
表題にもなっているベアトリーチェ。
この女性、美しい上に、
なんとも妖しい魅力を放っています。
といっても、経験豊かな
女性というわけではありません。
まだまだ少女といってもいい年齢です。
色仕掛けというわけでもありません。
外見的には
清楚なイメージすらあるのです。
では何か?

詳しくは読んでいただくものとして、
一言で言えば「毒素」です。
父親ラッパチーニが
庭園で育てていたのは
さまざまな品種の毒草なのです。
そして父親は自身の娘の身体に、
その毒を染み込ませていたのです。
それが彼女の体から放散されるため、
彼女は世間一般の人間とは
関わり合うことができないのです。
マンガ風な言い方をすれば
「毒人間」ということになるでしょうか。
フェロモンではなく毒素を放出する、
しかしジョヴァンニを激しく魅了する。
この、妖しい魅力を放つ
毒娘ベアトリーチェの存在こそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
危険な罠に落ちる青年

父親の友人・バグリオーニ教授に
再三諭されながらも、
ジョヴァンニはベアトリーチェに
惹かれていくのです。
決してベアトリーチェは
誘い込んでいません。
ジョヴァンニが
自ら落ち込んでいってるのです。

抗いながらも
落ち込んでいるのではありません。
まるで羽虫が妖花の芳香によって
ふらふらと
引き寄せられているかのような
印象があります。
読み手はその姿に
はらはらさせられながらも
言い様のない恐怖に
駆られてしまうのです。
この、危険な罠に落ちる
青年ジョヴァンニの心神喪失状態こそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
予想された悲劇的結末

彼の気づかないうちに、
事態は進行していたのです。
ジョヴァンニが自らの身体の変化に
気づいたときには…。
この点についても、ぜひ読んで
確かめていただきたいと思います。

もちろん作者がホーソーンですから、
ジョヴァンニが
ベアトリーチェの毒素を中和して、
二人は結ばれて幸せになりました、
などという展開は
あり得ないことはすぐにわかります。
本作品は紛れもない
怪奇幻想小説なのですから。
落ち着くところに
落ち着いていくのです。
この、ホーソンらしい
予想された悲劇的結末こそ、
本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

実は本書収録の訳文は、
昭和初期の岡本綺堂によるものです。
古さを気にされるのであれば、
最新の日本語訳として
2013年に松柏社から刊行された
単行本をお薦めします
(岩波文庫のホーソーン作品集には
載っていないようです)。

いや、古いとはいえ、
岡本綺堂による古典的な訳文は、
いまだに色褪せていません。
それどころか独特の面白さがあります。
ホーソーンの怪奇幻想が
岡本綺堂の色で
染め上がっているのです。
正確な訳文ではない分、
独特のエンターテインメントとして
完成している本作品を、
ぜひご賞味ください。

(2025.9.12)

〔「世界怪談名作集
   信号手・貸家ほか五篇」〕

序 岡本綺堂
貸家 リットン
スペードの女王 プーシキン
妖物 ビヤース
クラリモンド ゴーチェ
信号手 ディッケンズ
ヴィール夫人の亡霊 デフォー
ラッパチーニの娘 ホーソーン

※岡本綺堂訳「世界怪談名作集」は、
 もう一冊刊行されています。

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