「緑亭の首吊男」(角田喜久雄)

加賀美のとった「異様な行動」の意味は何か?

「緑亭の首吊男」(角田喜久雄)
(「霊魂の足」)創元推理文庫

加賀美が足を運んだ緑亭は、
数日前に
殺人事件があった店だった。
片目の男・橋本が殺害され、
店の主人・松太郎が
首吊り自殺を遂げたのだ。
加賀美はその顛末に
不信感を持ったのだった。
店が忙しくなった頃、
加賀美は異様な行動を…。

「和製メグレ」ともいわれた
名探偵的警察官・加賀美敬介の
短篇作品集の第一作として
収録されている作品です。
不可解な事件の起きた緑亭
(バーのような洋風酒場と思われる)に
足を運んだ加賀美のとった
「異様な行動」とは何か?

〔主要登場人物〕
野田松太郎

…緑亭の主人。一年間の失踪の末、
 帰宅して数日後、事件が起き、
 自死を遂げる。
野田よし子
…松太郎の妻。事件の数日後、
 店を再開する。
飯島伸
…緑亭の住み込みバーテンダー。
森川美代子
…緑亭の住み込み女中。
野田竹二郎
…松太郎の弟。白痴。
馬場留夫
…緑亭付近の地廻りの男。
 参考人として事情聴取された。
橋本喬一
…片目の男。緑亭で殺害された。
 松太郎を脅迫していた形跡あり。
加賀美敬介…警視庁捜査第一課長。
五十嵐警部…加賀美の部下。
峰刑事…加賀美の部下。

〔事件の概要〕
⑴昭和20年1月6日:松太郎失踪。
⑵昭和21年1月7日:松太郎帰宅。
・別人のように痩せ衰え、無口になる。
⑶1月15日:事件発生。
・緑亭二階居室で橋本喬一の死体発見。
・物置にて松太郎縊死死体発見。
⑷1月30日:加賀美緑亭訪問、事件解決。

本作品の味わいどころ①
戦後の混乱期の異様な事件

本作品の発表は昭和21年12月。
当然描かれる事件もまた、
上に記したとおり
戦後まもない混乱期に発生しています。
そしてその原因もしくは予兆とみられる
松太郎の失踪は戦時中まで遡ります。
松太郎の失踪の理由は何か?
松太郎は片目の男から
何を強請られていたのか?
事件の参考人の馬場は
何を目論んで営業再開した緑亭で
挑発行為を行っているのか?
読み始めると、深い謎に包まれた
事件であることがわかります。
この、戦後の混乱期に発生した
異様な事件の全貌を体験することこそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
おどろおどろしさの味付け

乱歩や横溝同様、
この時期の日本探偵小説の
特徴の一つである「おどろおどろしさ」を
本作品もしっかりと纏っています。
表題の「首吊男」、
殺人の被害者であり
恐喝の加害者である「片目の男」。
凶悪な男がいともたやすく
殺害された「謎」。
松太郎の事件前の謎の「失踪」。
帰宅後、
別人のように「痩せ衰えた風貌」。
これでもかというくらいの
おどろおどろしさです。
読み手はこれらを精査し、
謎の解明に関わるものと、
単なる虚飾に過ぎないものとを
見分ける必要があるのです。
この、戦前戦後ミステリの特徴である
おどろおどろしさこそ、本作品の
第二の味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
加賀美敬介の推理の切れ味

では、冒頭に掲げた粗筋の末尾、
加賀美のとった「異様な行動」とは何か?
実は証拠品として保管していた
「ハンケチ」を、
竹二郎のポケットに気づかれないように
滑り込ませているのです。
「ハンケチ」は、
現場に落ちていたものとして、
松太郎の妻・よし子が
警察へ届け出たものなのです。
犯人もしくは関係者の
遺留品と思われるのですが、
なぜそれを白痴であり
まったく事件に無関係と思われる
竹二郎のポケットにねじ込んだのか?

その成り行きを見計らって、
加賀美と峰刑事は犯人逮捕、
急転直下のように
事件は解決となるのです。
刑事部長に対する報告書という形で
明かされる加賀美の捜査と推理ですが、
その切れ味は抜群です。
「直感」としかいいようのないものから
スタートした推理ですが、
十分な説得力を持って
読み手に迫ってきます。
詳しくはぜひ読んで確かめてください。
この、金田一耕助や神津恭介に
勝るとも劣らない加賀美敬介の推理こそ
本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

本書「霊魂の足」は、
副題「加賀美捜査一課長全短篇」が
示すとおり、
長篇「高木家の惨劇」「奇蹟のボレロ」
以外のすべての
加賀美敬介登場短篇作品を
収録したものであり、
読み応えがあります。
「時代が古い」といって侮るなかれ、
現代ミステリにはない
魅力的な「探偵小説の味」が満載です。
ぜひご賞味ください。

(2025.9.26)

〔「霊魂の足」創元推理文庫〕
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「怪奇を抱く壁」について
 解題/解説

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